一人の出港
翌朝意気揚々と桟橋を歩くアキヨリの肩には槍が担がれ
槍には大きな風呂敷包みがくくりつけられている
中身は五日分の食料である
つまり彼の行き先は船で片道五日の道程という事になる
「アキヨリ殿
本当にお一人で行かれるんですかい?!」
後からついて来るキリュウがそう尋ねるのはもう三回を数えていた
「何度も言っているだろう
キリュウお前には騎馬隊の修練を頼む
戦になれば街中を駆ける機会が多い
細い路地から大通り
滞る事なく速度を維持して変幻自在の陣形を取れるようにしろ
貯水池の普請が一段落したらすぐにかかれ
それに俺は一人では無い」
アキヨリは担いだ槍を朝日に掲げた
槍の柄は木製ではなく
薄い鋼を幾重にも重ねた剛性と重量の塊であった
その柄は刃先より十七寸の所でへこんでいた
アキヨリはそのへこみを懐かしげに眺める
その槍の元々の持ち主は
アカイ タネフサ
現在の持ち主は
キリュウ ナオマサ
シジマ家の城攻めに最期を覚悟したタネフサから
家臣であったキリュウに受け継がれたのだった
へこみはいつぞやの一騎討ちの際にアキヨリの槍によるものだった
「タネフサ様が必ずアキヨリ殿を守ってくれます」
「すまないな俺の槍はもう棒きれになってしまったからな
町の鍛冶屋の話では新しい刃がつくまで一月も掛かるそうだ」
「元々が大業物ですから鍛冶屋だって滅多な仕事出来ねえんですよ」
アキヨリは一人乗りの非常に速度の出る帆船を用意して貰うよう頼んでいた
その船は二人の目と鼻の先にあるのだが
既に一人乗っている
「おいダンザ
朝からいないと思ったらここにいたのか
俺が一人で行くと言っただろう」
「シマの国にドーマンの真髄を習得に行かれるなら俺が行きます
若様は代わりの効かないお方です
万が一が無いとも限りません」
「シマの海賊やら野武士やら
使えそうな奴らを連れて帰る役目もあるんだ
顔見知りの俺が行かずに誰が行く
お前は鉄砲隊の編成と修練の仕事があるだろう
早く下りろ」
「ダンザはアキヨリ殿と一月も離れるのが寂しいと言ってるんでさ」
キリュウがからかうようにダンザを指差した
「なんだとう!
俺が一人じゃ何にも出来ない半端者だとでも言ってんのか?!」
ダンザが船から桟橋に下りキリュウに掴みかかった隙に
アキヨリは素早く船に乗り込み桟橋を蹴り
慣れた手つきで帆を広げ瞬く間に桟橋から離れて行った
「二人共 肝に銘じろ
俺の納得行く一月分の仕事をしていなければ拳骨を見舞うぞ!
暫しさらばだ」
「任せて下せえ!」
「若様ぁぁぁぁぁ!」
その様子を造船所の高台からジョスイは見送った
「ニザエモンの旦那には
千里眼の術が戦に役立つなんて言ってはいたが
カミさんを救い出す為なんだろ若大将
それでいいんだぜ
おめえはもっと自分の為に生きていいんだよ
みんなそれを望んでもいるんだ
まあ おめえがシマに行ってる間に
八門ある内の四門の大砲は俺の船に乗せちまうぜ
はっ!」
ジョスイの見送る眼差しも追い風になったのか
船の舳先はアキヨリの背丈程に波を蹴立て
浮遊感を伴う速度にアキヨリは塗れた
「肝に銘じろか…
兄上に幾度言われただろうか」
アキヨリは左胸に兄アキマサの存在を感じていた




