野良犬
「サナガ殿ようこそいらっしゃいました
本日の御用向きは」
無表情な出迎えの挨拶にジョスイの全身から脂汗が噴き出した
「アンドウ!」
「拙者の如き者の名を御記憶でしたとは光栄で御座る
して御用向きは!」
綿毛頭は左側にひねられた上半身を元に戻し
ダンザの顔を確認しようとしたが
「そんな根性俺には無えよ」
さらに体を捻った
「ジョスイざん!」
ジョスイは割って入ったマイに助けられた
「若だ…アキヨリ殿は御在宅であろうか」
ビクビクしながら訪問の意図を告げると
マイはおかしな人と一つ笑ってジョスイの手を取って
二階のアキヨリの部屋に導いた
その後ろから気配を消したダンザがついていく
「なんで気配を消すんだよ
余計におっかねえよ」
ジョスイは振り向けず脂汗も止まらない
「なあに?」
「なんでもねえ」
「こ、ここアキの…へ、部屋
アキー」
「マイか?入っといでよ」
襖越しにアキヨリが応える
「若様 サナガ殿がお越しです
失礼します」
今度はダンザが割って入り
ジョスイの横を通り過ぎ様耳打ちした
「六回だ」
「何が六回だよ」
「若様のご家人の事が無かった場合
玄関からここまでの間に俺が引鉄を引いた数だ」
そう告げるとダンザは
襖を開け机に向かい書き物に没頭していたアキヨリの二歩後ろに座った
アキヨリは背中を向け筆を休ませる事無くダンザに話し掛けた
「ダンザなんだって?
誰が来たって?
サナガって誰だっけか
ああ?
おい!お前ジョスイと会ったのか?!」
アキヨリが慌てて振り向くと
無表情で正座するダンザ
不思議顔でダンザとジョスイの間に視線を行き来させるマイ
ウミウシの様な顔色で立ち尽くすジョスイがいた
「ダンザ!
気持ちは分かる 俺だってお前と同じ気持ちだ
しかしなしかしだよ」
「心得ております」
「ジョスイのあの顔見ろよ
全然心得てなんかないだろお前」
「心得ております
俺は何の考えも無しに突っ走る猪ではありませぬ
しかし主君の仇の喉を必ず食い破る野良犬に御座る」
「分かった!分かったから席を外せ
何を話したか全部後で聞かせるから」
憮然としてダンザはマイを連れて部屋を去って行った
「ふうっ…
すまなかったなジョスイ
で どうだった?」
「寿命が縮んだ…
若大将俺の股は湿ってねえか?」
「ふふ 肝が太く無ければそんな台詞は吐けるまい
でさ、どうだったんだよ」
「結果から言うとだな
ヒデカツは居なかった
だが生きてる」
「そうか…
それでお前の手の者達は無事だったのか?!」
顔に赤味がやっと挿してきたジョスイはアキヨリに向かい合って座った
「ああ 大したもんだ全員無事で
始めに俺達の乗って行った船で明日の日暮れには着くだろう
ああそうだな説明がいるな
俺達はヒデカツの味方のフリして
俺達の船とヒデカツと川中衆の乗った船
合計二隻の船でアキの国に向かったんだ
ヘイクロウのヤツが一人で帰る事になって
残りのヤツらは城に潜り混んじまったから
でかくて一人じゃ動かせねえ
乗って来た船を置いて
周遊して情報を掻き集めてるミクリヤの船を捕まえてヘイクロウが帰って来た訳なもんだから
二隻の船が置きっ放しになった事になるな
だが俺が再びアキの国に着いた時には一隻だけだった
丁度 城を抜け出して来た手下達を問い詰めたんだが
誰も船が出るとこを見てねえんだ
何がでけえ音を立てるなりして
そっちに気を向けさせた間にヒデカツは逃げたんだろう
無人で鉄砲なり大砲なりをぶっ放す仕掛けがあったんだろうな
実際俺が着いた時にも炸裂音がしてた
ボンボンもやるもんだぜ」
「そうか…
しかしどこに向かったというのだ」
「さあな しかし俺は思うぜ
俺達の度肝を抜く所から現れるってな」
「そうだな きっとそうだ!」
「とりあえず安心したかよ」
「ふん!
俺は始めからヒデカツは無事だと言っていた」
「ああそうだったな
はっはっはっ」
「ところでジョスイ
ニザエモン殿にはもう会ったか?」
「いやまだ行ってねえ」
「これから行くだろう?
俺も行く
頼みたい事があるのだ」
「なんだよ頼みたい事ってなぁ」
「普請の監督はお前に任せて
しばらく暇を貰いたいのだ」




