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六角の花   作者: フミ
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備えあれば

商人街、貿易港という生き物の命を躍動させる血液は物資であり人である

それが流れ行き流れくるのはサカイには大きく三つある


一つはアキヨリ達がやって来た海路


一つはダンザが救出され行商人の一行と共にやって来た西からの大通り


最後は都から続く最大の陸路

ナリカワの大軍勢が押し寄せ

主戦場になるであろう街道とサカイの町との境界線である

幅六間長さ十間はあろうかという巨大な跳ね橋の鎖を吊り下げる門の上に朝日に逆光となった不自然な二つの影があった


元よりそんな高所に人がいる事自体不自然なのだが

二つ目の影は鳥である

鳥がとまっているのは自然であるが

不自然なのはその大きさであった


「ここから見るとよく分かる

町を作るにあたってかなり盛り土をしたのだろうな

荷車を引いた者が苦労しないように街道の坂は緩やかだが

町の内外の高低差はかなりある

俺の鉄砲なら距離二町は届く

一町の距離ならば眉間を撃ち抜けるぜ

そしてあの道祖神の塚が絶妙だ」


ダンザが視界に捉える道祖神塚の鳥達が一斉に飛び立った


ゴス!


ダンザの横顔を巨大なクチバシが小突いた


「すまん、すまん

リヨウお前達飛ぶ者は俺の何かに狙いをつけた気みたいなやつが嫌いなんだったな

興奮して思わず漏れた

そろそろ下りるぞ

っと その前に」


ダンザはリヨウのクチバシの下を人差し指で触った


「ドーマン!」


リヨウは飛び立ちダンザは柱をスルスルと下りて行った


「ダンザ どうだった?」


「やっぱり若様のにらんだ通りです

あの塚からは大砲は届きませんし

こっちからは充分射程距離です」


「そうか ふふふ」


「あれっ?

アキヨリさんはサッパリした人だと思っていやしたが

いやらしい笑い方もするんでござんすね

いいや面白れぇ」


「なんだか気恥ずかしい

ギンザブロウ殿は時々人の顔を穴が開くくらい見ている」


「へへ

興味があるもんに対しちゃ建物でも何でもそうなんでえ

ダンザさんも下りて来た事ですし

行きやしょうか

まずはあの道祖神塚でござんすね」



三頭の馬がサカイの町より十町離れた道祖神塚へと駆けて行った

一頭はアキヨリとダンザを乗せたアクヤ

残り二頭の芦毛の駿馬にはギンザブロウとその舎弟分のハンシロウがそれぞれ跨っている


「兄貴 やっぱり赤鬼って呼ばれるだけあってアキヨリさんはイカツイお顔をなさってますね

あのお伴のダンザさんも相当イカツイ

やっぱり坂東武者はかっこいいなあ」


「くっくっくっくっくっくっくっ」


「なんでえ!何が可笑しいんでえ兄貴」


「なんでもねえよ

昨日よりだいぶマシになってるから夕方にはおめえにも分かるさ

船を引き上げる段取りはついたし

アキヨリさんの案を全部聞きだすのが今日の仕事だ

一字一句聞き逃すんじゃねえぞ」


「へい!」


「ギンザブロウ殿ここいらがよろしかろう」


道祖神塚の頂きは広い平地になっていて木々が生い茂り

木漏れ日が一行の頬を照らしていた


「砦を作るんでござんしたね

実際ご覧になってどうでござんすか

結構でけえもんが出来ると思いやすが」


「街道から見て出来るだけ大きく見えるものが良い」


「と 言うと?」


ギンザブロウの視線はアキヨリの顔に穴を開けた


「街道からの外見は立派に

中身は手を抜いて

大勢が乗ったら崩れるくらいが良い

どう作るかはギンザブロウ殿にお任せいたす」


「ほほう!

それじゃあ面白えもんをこさえてご覧に入れやすよ

へっへっへっへっ

ハンシロウちょっと紙と筆を貸せ」


「へい!」


ギンザブロウの筆が走る


「これがですね」


「うむ!」


「こうなりやしてね」


「おう!」


「こうなりやす」


「最高だ!

ギンザブロウ殿 我が策を見抜かれたか!」


「大体ね

本当にあんたは面白え」


「ダンザ そっちはどうだ?」


「早速掛かります

ドーマン!」


ダンザはリヨウからの道祖神塚周辺の視界を

縦三尺横六尺の大きな紙を広げ地図へと変換し始めた


「千里眼とは便利な術でやすね

ご家中の方は皆使えるんでござんすか?」


「いや

まず拙者が習得してダンザに伝授いたした

見る事に関しては元々才があるのかすぐに使いこなしてくれたが

他の者には無理だったようだ」


「おいらにもできやすかね?」


「見ただけで穴を開ける術ならお持ちで御座ろう」


「違げえねえ

しかしダンザさんは製図が上手だ

ウチの組にくれやせんか?」


「こき使って下され」


「若様!!」


「すまん すまん冗談だ」


日が傾く頃には町周辺の北半分を地図に起こし

ハンシロウの帳面も空きが無くなっていた


「お疲れさんでござんした

そろそろ帰りやしょう

今夜はご家人方とご家来方もウチに来て下さるでんござんしたね」


「すまない大勢押し掛けてしまう

迷惑ではないだろうか?」


「おいらからの提案でござんすよ

宴の金は大旦那衆から頂きやしたし

朝っぱらから人ん家の敷地であれやこれや宴の準備を仕切ってござんしたよ」


「楽しみだ

しかし身に余る

ハンシロウ殿お邪魔いたす」


「へ、へい!!」


ハンシロウは他人でも見るように兄貴分同様にアキヨリの顔に穴を開けた


日も暮れようかという頃

一行がワシノミヤ組の広い宴の会場と化した作業場に着くと

鳴り物が鳴り半裸で踊る

坂東武者

豪商

陶芸家

の姿があった


アキヨリの到着に気付いた

イヨ姉様

オタマ

マイ

トウカ

リクノブ

に日輪のようで艶やかな笑顔を見せて

まず笛が

続いて三味線が

宴の渦を竜巻へと変えて夜は更けていった



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