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六角の花   作者: フミ
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鷲宮組棟梁 宇治川銀三郎

「ぜぇーはー!ぜぇーはー!

大旦那様ぜぇーはー!

アキヨリ様をお連れしました」


「早かったねリンタロウ

アクヤに乗って来たのかな?」


屋敷にある井戸の釣瓶桶で顔を洗っていたニザエモンは

リンタロウの哀れな姿を見ること無く呑気に答えた


「私はアクヤ号より早よう御座いました!ぜぇーはー!」


「ははははは!

さてはアキヨリ殿と走って来たのだね

そのアキヨリ殿はどこだね」


「見失いました!」


「ははははは!ははははは!ははははは!

それではお連れしたとは言わないだろうに

ははははは!ははははは!」


すると話題の男の声は庭の方から聞こえて来た


「うわああ!なぜここに?!」


「あきゃきゃきゃ!

さっそく暴露ちまったね

あたしゃこっちに世話になるよ

ちゃんと赤ん坊の世話するから心配するでないよ」


「うひひひひ」


「なんだい色男にしちゃ いやらしい笑い方だね」


「イヨ姉様?」


「だからなんだい」


「いや、言葉にすれば野暮というもの」


「じゃあ音で表してやろうか?!」


「イヨ姉様それまで!」


「ほほう 今日は大旦那方が集まると聞きつけ曲者が忍び込んでいるな!」


ニザエモンが槍を構えて二人の前に現れた


「ニ、ニザエモン殿!

申し訳御座らん

ニザエモン殿を驚かそうと身を隠していたら

自分が驚いたといった次第で

あっ!イヨ姉様の事 何卒」


「こちらこそ申し訳ない

しばらくしてからとは思ったが

私も独り身でね

君達のお姉様 かどわかさせて頂きましたよ」


アキヨリならではの気の利いた言葉が返って来るかと思っていたニザエモンだが

アキヨリはあり得ないものを見たといった顔で固まっている


その視線を辿ると頬を赤らめるイヨ姉様がいた

内股である

それだけでは無い全ての関節は内側を向いていた


「かどわかすだなんて…」


「なんて可愛らしい…」


目を細めニザエモン


「なんだこれ?!」


すると庭に面した廊下の奥の障子が勢い良く開いた


「俺はワシノミヤ組の棟梁

ウジガワ ギンザブロウ!

建物、道、橋やら堤防

土木全般を普請させてもらってる

あんたがジョスイさんと戦を仕切るって事になってるシジマ アキヨリか?!」


「いかにも!

シジマ アキヨリで御座る

あの水路に見せかけた堀と

土蔵に見せかけた城壁はそなたの手による物か!」


「ほう…

いつ見抜いた?」


「海上より!」


「ほう!ほう!ほう!

ニザエモンの旦那

早速だがアキヨリさんと話がしてえ

こっから上がってもらってようござんすな」


「かまわないよ

大旦那方が揃うまで暫くかかるかも知れないからね

細かい話までつめてしまうといい」


「私ら抜きでそんな楽しそうな話をされたら敵わんなあ

ニザエモンさん

私らもこちらから失礼させていただきますよ」


サカイの町を取り仕切る八人の大旦那達が揃って現れた


「皆さん朝早くから ご足労かけますなあ

昨夜の酒は抜けておられますかな?」


「本当に大事な会合は朝という取り決めではないか

明朝は東国の赤鬼と会わねばならぬと酒も喉を通らなんだ

ははははは

お初にお目にかかります

キョウジヤで御座います」


「シジマ アキヨリで御座います

拙者はそのように呼ばれておるのですか」


「オダニヤで御座います

いやいや鬼とは似ても似つかぬ貴公子ぶりですぞ」


「シジマ アキヨリで御座います

それはこそばゆい拙者など山猿に御座います」


「大旦那方!

挨拶なんざ後にしてくだせえ

おいら早くアキヨリさんと話がしてえんでさあ!」


ニザエモン邸の大広間のでは半紙が飛び交っていた

その中心には鬼の形相で筆を走らせるアキヨリとギンザブロウ

それを取り囲んで大旦那達


「蔵を城壁とすると

こちらから鉄砲を撃ち掛けるには屋根の上からになる

兵の身を守る物が無い!」


「その心配は無え

土蔵の二階の壁を押しこくれば何箇所か銃眼が空くようになってる

二階からバンバン撃ちこくってくれ

こんな塩梅だ」


サラサラ バシッ


ギンザブロウの筆が走り

すぐさまアキヨリの手に渡る


「承知した!

しかしそうなると土蔵から土蔵への移動が困難だ

いちいち階段を下りたり登ったりは兵の疲労が蓄積する」


「だったら渡り廊下で繋いじまおう

土蔵はどこの店のもんも同じ寸法でおっ立ててある

組み立て式にして同じ部品を流れ作業で作ればあっと言う間だ」


サラサラ バシッ


「承知した!

あの分厚い土蔵の壁だが中身はどうなっているか?」


「通常の壁を二重にしつらえて

その間に石垣みてえに石をぶち込んだ」


二人の様子を身を乗り出して見物する大旦那達


「これは喧嘩ですなあ

こんな上質な喧嘩は滅多には見られませんぞ

これを肴に酒が飲みたいなあニザエモンさん」


「本当に大事な会合は朝

そして素面との取り決めではありませんでしたかな

私は昨夜ジョスイ殿とアキヨリ殿の喧嘩で一杯頂きましたが」


「なんですと!

それは羨ましい!」


ガタッ!


アキヨリとギンザブロウが立ち上がった

ギンザブロウの手には昨夜のジョスイの貯水池の見取り図が握られている


「アキヨリさんはこんな馬鹿げた普請をおいらにやらせようってのかい?!」


「いかにも!

考案は西国一の知恵者 サナガ ジョスイ!

必ず何らかの意図がある!」


「その意図が何か知ってんですかい?!」


「知らぬ!」


「知らずに信じると?」


「いかにも!」


「グッと来たぜえええ!

ここで話してたってラチが開かねえ

現場に行きやしょう!」


「承知した!」


いわゆる鉄砲玉である

目を血走らせ駆け出す二人をオタオタと大旦那達も追いかけた


「ギンザブロウ殿

俺の馬で行こう」


「いや二本の足で走って行こうぜ

道すがら色々この町に仕込んだ俺のからくり案内してえのさ」


「それは楽しみだあぁぁ?!」


アキヨリの体は横っ飛びに吹っ飛んだ

何者かに体当たりされたのだ

その何者かは稲妻のような素早さで吹っ飛ぶアキヨリを捕まえ馬乗りになり

そして叫んだ


「シジマ アキヨリ今迄どこに行っていたあああああ!!」




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