成川 秀満をぶっ飛ばせ
元々 火など焚かれていない夏場に茶を沸かすのに用いる風炉から茶釜を左手に取り
右手に持った茶碗に酒を注ぎ
胡座をかいて身を乗り出し
二頭の野獣の喧嘩という最高の肴で
ニザエモンは極上の一杯を飲み干した
「己の一族にまつわる因縁に嫌気が差し
世の中を斜にしか見なかった
サナガ ジョスイ
仕えるべき主君を失い
世捨て人を気取っていた
シジマ アキヨリ
それがどうだ
側にいるのが熱くてたまらん程 激しているぞ
この二人はこうなってこその武将だ
商人の用心棒や陶芸家などではない
武将なのだ
ナリカワ ヒデミツよ
どうやらお前は虎の尾を踏んだようだぞ」
アキヨリとジョスイは自分達がニザエモンの酒を美味くしているなど全く気がつかない
「言え!
ナリカワ ヒデミツをぶっとばす手段を
言え!!」
「ジョスイ殿」
「なんだよ」
「ナリカワ ヒデミツをぶっとばす手段ですが」
「今それを若大将に聞いてんだよ」
「私が代わりに答えて差し上げましょう」
アキヨリとジョスイの体に込められた渾身の力は冷や汗と供に二人の体外に分泌されて行った
「籠城」
ゴクリ!
アキヨリは生唾を飲み込んだ
「ご名答ですかなアキヨリ殿」
「おいおい!籠城つったって俺達の城なんてもうどこにもねえんだぜ
ああ?…まさか!」
「そう、籠城で御座る
鉄砲の登場以来 近代戦術においては敵陣にいかに多く鉛玉を撃ち込み
同時に敵の鉄砲をいかに防ぐかにかかって御座る
それには堅牢な城壁を備えた城に籠城するのが一番の手段で御座る」
ドンッ!
アキヨリは茶室の水路側の壁を拳で叩いた
彼の膂力からするとその音は小さく
壁に掛けられた花生けは微動だにしない
「三十寸はある
土蔵の壁というには厚過ぎる
鉄砲を一年掛かりで撃ち込んだとて
針の穴一つ空くまい
大砲で吹き飛ばそうとてそう簡単には行くまい
この町を取り囲んだ水路という堀と土蔵という城壁で
ニザエモン殿!
一体どこのどいつと戦いたすのか!」
「ナリカワ ヒデミツ」
「なんと!」
「なんだって!」
「何を驚いているのだお二方
先程までナリカワをぶっとばすと言っていたのは君達だよ
私のお願いというのは他でもない
サナガ ジョスイ殿
シジマ アキヨリ殿
お二方には我等サカイ商人が築いたこの城で
ナリカワ ヒデミツをぶっとばして頂きたい!
当初の予定では お二人の力でナリカワ勢を手こずらせ
戦いを長引かせ
落とし所でこちらに都合の良い停戦条件を引き出そうと思案していたが
気が変わった
もう一度言わせてもらう
ナリカワ ヒデミツをぶっとばして頂きたい!」
「うおおぉぉぉぉぉ!!
願ってもねえ!!
俺に船を改造させたのも
俺と若大将を手元に置いたのも
全てこの為だったんだな!」
「喜んでお引き受けいたす!
だが!
理由は何で御座る
ナリカワと事を構えたとてサカイには何の得も御座るまい」
「気に入らんのだよ
ナリカワ色一色に日の本が塗り替えられるのが」
「はあ?!」
「理由はそれだけで御座るか?!」
「そう、理由はそれだけ
商人を甘く見てはいけないよ
私だけではない
表には出さないだけで
この町の大旦那方は皆反骨者ばかりだ
まだ天下を治めた訳でも無い
何の面白味も無い田舎大名に我等の有りようまで口を出されたくは無いのだよ
そんな訳で此度の戦費要求は突っぱねた」
「そりゃ痛快だ!
しかしどうするよ旦那
既にナリカワの野郎は鎮西攻めの仕度は準備万端整ってるだろうぜ
こっちはまだ何の準備も出来てねえ
鉄砲、大砲、軍艦はあるが兵がいねえ
浪人、落武者集めるにしたって時間がねえじゃねえか」
「オアイ様の後目と領地配分を巡ってのナリカワとオアイ様配下大名達の内輪もめが
のっぴきならない所までいっているようだ
おそらく戦になるだろう
三年間はこちらに構っている余裕は無いのではないかな?」
「なんと、流石はニザエモン殿耳が早い!」
「それに人集めも順調だよ
近い内に懐かしい顔に出会すのではないかな
アキヨリ殿」
「拙者の?!
それは一体誰で御座るか?!」
「ははは!
お二人の了解が得られたのなら今夜は大収穫
楽しみは明日に取っておこう
明日はお二人には大旦那に会って頂く
迎えを寄こすからくれぐれも朝寝しないように
ほれ、ご家族達が待っておるぞ」
「ううむ…ならばそうさせて頂く
ニザエモン殿
重ね重ね家族への厚遇
拙者への勿体無い申し出
深く深くご御礼奉って御座る
それでは御免」
「俺も隠れ家に引き上げるぜ」
「まあまあ、これからは堅苦しいのは抜きでな
二人共おやすみなさい」
ストッ!
アキヨリとジョスイが退室しようと
茶室の出入り口である
躙り口という狭い戸を開けようとするとそれは勝手に空き
使用人らしき男の顔が現れた
「うわっ!」
「びっくりさせやがって!」
「失礼を!」
使用人らしき男は落ち着かない様子で
アキヨリとジョスイの顔を交互に伺っている
「何か急な報告があるのだろう?
構わないよ
二人はもう身内だからね」
「はい!
では大旦那様、申し上げます
先程早船が到着いたしまして
アキの国トミナリ城がナリカワ ヒデカツ様に占拠され
城主ナリカワ ヒデサト様が取り戻そうと応戦しているとの事で御座います!」




