水には流せない いつの日か自らの手で取り除く
「うお?
朝っぱらから二人揃って仲のよろしいこって」
「!」
「キリュウ!」
アキヨリ、ジョスイ共々我を失っていたのだろう
キリュウの接近に全く気がつかなった
「いやいや、そんなにびっくりしなくたっていいじゃねえですか
俺ァ嬉しいんですぜ
お二人にゃ俺は本当に世話になった
だからお二人が仲直り出来たらどんなにいいだろうって常々思ってたんでさあ
俺とシジマ殿とだって元々敵同士だったんだ
昨日の敵は今日の友ってね
今迄の事ァ水に流して下さったんですぁね
ああ、よかったよかった」
肝心なところで話を打ち切られアキヨリとジョスイは視線を外し
複雑な表情で白波を見つめていた
「あれあれ、お邪魔しちまいましたか?」
「水になど流せるか…」
白波に向かい呟くはアキヨリ
「え?!」
「水になど流せるかと言ったのだ!
経緯はどうあれ
ジョスイの呼び込んだ災いに兄上達は命を投げ打って挑み
ジョスイとの戦いで俺の直臣達は命を失ったのだ!
俺の落ち度でそうなったのは事実だ!
だが水になど流せるか!
目を閉じればいつでもその勇姿目に浮かぶ
俺の直臣、四百九十二名の名
今でも諳んじられるぞ!」
「おいおいおい
今ここで言うつもりか?!
それだけは勘弁してくれぇ!」
ジョスイは口に出さない代わりに頭を抱えた
ドンッ!
背中に殴られたような衝撃を不意に受け
アキヨリは軽く短く息を吐かされ振り向くと
憤怒の形相のマイに睨まれた
またしても人の接近に気付かなかった訳になる
振り向く途中オタオタしておかしな動きを繰り返すキリュウの姿が一瞬だけ見えた
「どうしたというのだ マイ
何をそんなに怒っているのだ?」
家臣達の姿を思い浮かべていたところで
マイの一番見たく無い表情を見せられ
一番ぶつけられたく無い感情をぶつけれアキヨリの眼球は小刻みに左右した
「ジョズイざん、いいひど!
アギヨジィいじめなぎぃで!」
「分かった、分かったからもう怒らないでくれよ」
マイは何度もジョズイに向かい頭を下げ
またアキヨリの頭を押さえ下げさせようとした
「ちょっと待った!」
ジョスイの声は体の中心から吐き出された
一同その真意を確かめなければ呼吸さえままならないまでの声だった
「謝るんじゃねえ若大将
これはおめえの芯棒に関わる事だ
謝るんじゃねえ
俺も今は謝る気はねえ
完全におめえの心の収まりどころが見つかって
俺も俺の心の収まりどころが見つかって
それでも俺が謝る気になれたら
おめえが俺と和解してもかまわねえって思える時が来るなら
そん時は俺が謝るから
頭下げるんじゃねえ
お嬢ちゃん、そういうこったから
訳わかんねえだろうが
このジョスイに免じて
そのありがてえ気持ちを引っ込めちゃくれねえか?
本当にありがとよ
本当にな…」
立ち入ってはいけない何かに足を踏み込んでしまったのだと理解したマイは
謝罪では無く理解したという意味で頭を下げ
頬をやや赤らめアキヨリの後ろに隠れた
間も無く船室の扉が開き
必要以上に賑やかな船員達が
波音など聞こえない位の賑やかさを甲板にもたらした
キリュウは助かったとばかりにその中に紛れて行った
紛れてしまったのはアキヨリの中にもジョスイの中にもあったが
今は紛れてしまった方が良いのかもしれない




