異国の神の愛
「ああ、そうさせてもらうぜ。
おめえに言っておきてえ事の半分も話せてねえからな。
多分おめえはこう考えてんじゃねえか?
祟りを恐る権力者達に棄民とされた、アキの国の民の恨みを、
俺の一族が代々受け継いで来たんだろう。
サナガ氏が天下を取るのが、アキの国の民の長年の念願で、それを叶えようとしたのだろうってな。
その通りさ。
だがそれだけじゃねえ。
いや、俺の動機はそれじゃねえ。
この乱世のきっかけの、将軍の跡目争いを収める為に都勤めになっても、
俺の一族にはあん時の恨みは受け継がれた。
俺はガキの頃から何度も何度も、親父に一族の因縁の昔話を聞かされたよ。
恨みを忘れるな。
いつの日かサナガが、日の本を従えるのだってな。
たがはっきり言ってな、
俺はそんな昔の事をいつまでも引きずった、
しみったれた自分の血筋が大嫌いだったよ。
俺はそんな事なんかより、遠い欧州から遥々やって来た南蛮の様々に惹かれていた。
地球儀を見てからは、この世界のでかさに心を奪われたよ。
いつまでも小せえ国の、小せえ恨みなんかに捕らわれてたってしょうがねえってな。
だがよ、激しくなった戦乱を避ける為、
アキの国に疎開させられた俺はデウスに出会った。
最初は俺もマユツバもんだった、
だがおかしいんだ。
アキの国には異常って言える程、デウスの教えが広まってた。
なんでかって俺も不思議でたまらなかった。
その答えは親父の昔話の中にあった。
さっきの話の続きだ。
めでたく呪いを封じ込めたトキサダ、ヨシサダだったが。
山から下りてきたヨシサダが血を吐いて倒れた。
既に呪われてたんだろうな。
そのヨシサダを指差して一人のガキが、
「その者の子孫が遠い将来アキの国を奪いに来る。」
そう言いやがった。
ただのガキの戯言なら皆聞き流しただろうが、そいつはただのガキじゃなかった。
モンジュ坊って呼ばれたそのガキは、生まれながらに祟られた子供の一人で、頭が異常にでかかった。
すぐ死んじまう祟られた他の子供と違い、歩けねえし喋れねえが、死なずに育っていった。
そのあーともうーとも言わねえガキが、六歳になった頃突然喋りだした。
「朕を国中連れてまわれ、
祟りの届かぬ土地を教えてつかわす。」
ってな。
「なんと!その子供が呪いから民を守ったのか?!
呪いを防ぐ方法とは!呪いを防ぐ方法とは、呪いの届かぬ土地を見分ける術であって、
何か身に付けるだとか、何かの術の類いではないのか?!」
アキヨリは思わず口をはさんだ。
「そうさ、
誰もがおめえみてえに、やれ何とかの術だとか使える訳じゃねえ。
呪いを防ぐ方法は避ける方法だったのさ。」
「そうか…」
「なんだこいつヤケに落胆してやがるな、
だが、いつ誰が出てくるか分かんねえ。
気にかけてやるわけには行かねえな。」
ジョスイはまたヘソの上で呟くと続けた。
「皆 半信半疑だったが、
サイコロの目やら網に魚が何匹かかるかやら、次々言い当てるもんだから。
皆 藁にもすがる思いで、言う通りにしたんだ。
そしたら呪われる民はパッたりいなくなった、そのガキが言ったんだ。
ヨシサダの子孫が、自分達の国を奪いに来るってな。
先の事は言い当てられるが、自分の言った事がどんな意味かは分からなかったんじゃねえか?
それを聞いてトチ狂って、とっ捕まえてヨシサダを殺そうとする奴らが当然いたのさ。
命の恩人に、なんて事するって言う奴もいたが、止められやしねえさ。
何しろ先の事が分かるってのは、馬鹿にとっちゃ絶対なんだ。
そんな奴らに追っ払われるように、トキサダとヨシサダは国に帰って行った。」
「そんな話ならシジマの伝承にあるべきだ!
いや、そんな事よりも、そうか!
合点が行ったぞ!
俺が終ぞトミナリ城の支城を落とせなかった、異常な兵達の高い士気はそのせいだったか。
モンジュ坊の伝承は、アキの国の隅々まで伝えられているのだな。
今でもシジマ家は、アキの国の民の敵なのだな!」
「そうさ、それでいて外には決して漏れたりしねえ。
それが四百年続いたんだ。
どれだけ恨みが深かったかって事さ。
だからナリモト攻めを俺から、おめえ達に替えるって御館様が言ってきた時、
俺は反対したが聞いちゃくれなかった。
俺は繋がりのあるナリモトを調略して、上手いこと言いくるめろと言われてたが、
繋がりがあるだけに疑われた。
一度疑われたら おっかねえあの人の事だ、
いつかは殺られる。
それも動機だったと言えばそうだな。
話がそれちまったな。
アキの国にデウスの教えが広まった理由それは、モンジュ坊が十二歳の時さ。
死ぬ間際に言った言葉がそうさせた。
「四百年後、十二の使徒に護られた新たな神がこの地を訪れる。
その神を護りその神に従え。
我らは永い苦しみから解き放たれるだろう。」
知ってるか?
デウスの弟子も十二人、皆色めき立って洗礼を受けたって訳さ。
俺もその一人さ。
だが俺は伝承を鵜呑みにしちゃいねえ、
俺の心を打ったのはデウスの教えにある、
人は生まれながらに平等で、
神は平等に万民を愛するってとこさ。
俺はこの日の本を権力者や、法が支配する国じゃなく、
愛が支配する国にしたかったのさ。
俺にも権力者を憎む血が流れているって事かもな。」




