俺が知りたいのは動機だ
「なんだと?!」
アキヨリの逆立つ背中の産毛がそう言ったが口は動かなかった
その代わり左の肋骨の内側で呟いた
「いちいち つっかかってこの機を逃すわけにはいかん
誰か現れればジョスイは口を噤むだろう
黙って聞く最初にそう決めたではないか」
その決意はジョスイに謀反の理由を問いただすには必要不可欠なものであると認識していた
それにジョスイという人間の本質を理解しつつある今
余程の事では感情的にならない自負があった
ジョスイはアキヨリの様子を気にも止めず続ける
「ずっと前から朝廷は御館様を脅威に感じて
彼方此方の大名に密かに節操無く討伐しろって勅を出してたのはおめえだって知ってんだろ
下手すりゃおめえの兄貴のとこにも来てたんじゃねえか
俺なんかは呼ばれて行く度にその話さ
そんな最中御館様が死んだって知らせを俺はシンシュウの陣中で聞いたた
朝廷の使いっ走りがまた来やがったってんでお出迎えしたら
なんと左大臣イチジョウ様だよ
何やら長々と帝の勅令であるなんつって書状を畏まって読み上げてやがったが
要するにオアイ ミナヅネを殺しちまったから
後始末よろしく
今すぐこっちに来いって事だった
泡食ったぜ
やれ、やれとは言われてたが
やるとは聞いてなかったからな
丁度 交戦中だった敵の大名カドクラのじじいが病に倒れたって情報を掴んだんで
停戦交渉は訳なかった
丁度と言えばイスパニアの宣教師兼諜報員も来てやがったから後ろ盾を頼んだよ
国を乗っ取られかねねえ賭けだったが俺は何でもかんでもすがりてえ程不安だったよ
まあその俺のだらしなさでおめえの兄貴にゃ…」
「続けろ」
アキヨリは思わず口を開いた
その話に触れれば感情的にならない自信がなかった
「ああ、続ける
都に着いて朝廷のお偉いさんに囲まれて御館様の首にひき遭わされて
錦の御旗を貸してやる官軍として大名共をなんとかまとめ上げろ
関白だろうが太政大臣だろうが征夷大将軍だろうがなんにでもしてやるからなんとかしてくれって泣き付かれたよ
でだ
まず一番の難敵になるだろう
どんな策も口車も通用しねえ
おめえ達シジマ家をなんとかぶっちめる事にしたのさ
後はおめえの知っての通りさ」
再び船上は波音だけとなった
「終わりか」
静寂を破るはアキヨリ
「あ、ああ…」
「俺はお前に謀反の経緯を聞いたのではない
動機を聞いたのだ!
相手が朝廷だろうと帝だろうと権力、権威の言いなりになるお前ではあるまい!
お前の意思無くしてお前の謀反は成立しない!」
「ああ、その通りさ…」
なかなか持ち場に現れない船員の眠る船室と居眠りを続ける当直の船員を見つめジョスイは呟いた
「なあ、親父…こいつには全部話してやってもいいだろう?」




