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六角の花   作者: フミ
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手紙

船室の一番奥 普段は船長室として使われている部屋の扉が僅かに開いた

その三寸の隙間は


「あははあはは!」


乗組員達の食堂、寝所、として使われていた広間からの宴の放つ音と光を暗い船室に差し込ませた

三寸の光は部屋の一番奥の壁の海図に届く頃には一尺程になっていた


「アキヨリだね」


「お休みでなかったのですか姉様

なぜ拙者と?」


「分かるよ、臭えもの」


「一、二度水浴びをしたのですが」


「あたしの事は気にするでないよ

主役がいないんじゃ宴もカッコつかないよ

早く戻りなよ」


「申し訳御座らん

此度の騒動に姉様を巻き込み…」


「またそれだ、それ以上言ったら本当に怒るよ

それにあたしはね楽しみなんだよ」


「サカイの事でしょうか?」


「まっ、まあそうだね

さっ、早く戻りな」


「はい、その前にもう一度息子達の顔を見せて下され」


アキヨリの眼差しが優しく二つの産まれたてを包む


「アキヨリ、もう手紙は呼んだかい?」


「はい、ゲンは姉様にも同じような手紙を書いたと言っていましたが」


「うん、あたしも読んだ

あのさ、手立てはあるのかい?

あたしゃまだ頭が追っつかないよ」


「はい、必ず全て取り戻してみせます

拙者はその為に力を与えられ申した

姉様、都合の良い事を申しますが

お山の守人についての事全て忘れて頂く訳にはいきませんか?」


「あたしを巻き込みたくないってか?

そうは行かないよ

やっとゲンを説得して教えて貰ったんだ

身寄りの無いあたしゃなんだか

この事であんたらと家族と言ったら言い過ぎかもしんないけど

言い過ぎかもしんないけどさぁ

アキヨリ、忘れろなんて二度と言うじゃないよ

言ったその日にゃ赤ん坊達にそりゃ汚い言葉覚えさせるよ」


「それだけはご勘弁を

拙者達を家族と思って下さるなら

姉様でなく姉上と呼ばせて下され」


「それだけはご勘弁だね」


「あはは、あはは」


「あきゃきゃきゃきゃきゃ」


二人は声をころし笑った


アキヨリは宴へと戻る前にふんどしに挟んだゲンからの手紙をもう一度読み返した

ふんどしに挟むのは本意では無かったが

具足も作務衣も全てマイとオタマに剥ぎ取られ洗濯に廻されてしまった


扉の隙間からの灯りが手紙を照らす





大兄シジマ アキヨリへ


先ず手紙の作法数々あれど全て省かせて頂く事ご勘弁あれ


一番伝えたい事から綴りたいのだ


此度の事はアキのせいでは無い

決して自分を責めてはいけない

俺達はお山の守人と多々良の守人について知っていたのだ

そして知っていて黙っていた事を詫びなければいけない

本当に申し訳ない


なぜ黙っていなければならなかったか

それは先生の意思だ

先生はアキを巻き込みたく無かったのだ


経緯を知ればきっとアキは命を投げ打って母様とリッカを助けようとするだろう

アキに全てを伝える必要があるなら

陶芸の修行で登り窯を扱い

多々良の守人としての高みに立った後だと言われた


それともう一つアキを巻き込みたく無かったのはリッカも同じだ

巻き込みたく無かったと言うより知られたく無かったんだろう

アキには分かるだろうからもうこの事には触れない


アキはきっと知らせてくれなければ

先生は亡くなってしまったし

いつになっても問題は解決しないと思うだろう

だか詳しくは分からないが先生は母様を助ける為の何かを遺していった

それは何事も無ければ何十年か後に力を発揮して

母様を縛り付けるものを取り除いてくれるのだそうだ


何事も無ければというが

トウカが男として産まれたのも

アキが侍達のいざこざに巻き込まれたのも

リッカと離れなければならなくなってしまったのも

気を悪くしないで欲しいのだが

必然だったのだと俺は思う


先生も言っていたが

アキは神が遣わしたのだと俺も思う

きっと母様とリッカを救い

火の神と呼ばれる何かを鎮め平和をもたらしてくれると

俺は今は何も出来ないが力になりたい

アキの力になる為に産まれてきたのだと思うと誇らしい気持ちになれるんだ

目を背けてきた自分の生い立ちにも光が差し受け止められるんだ


最後に俺が知る限り先生と母様について記しておく


俺が先生に連れられあの屋敷に来た頃には

まだ母様も屋敷に一緒に住んでいた


母様と何度も書いてしまったが

リッカのお母さんを俺達は母様と呼んでいたんだ


とても美しくて

とても優しかった

俺達にリッカと分け隔てなく愛情をくれた


俺がここまで話せるようになったのも母様が根気強く訓練してくれたからなんだ


優しく明るかった母様だが

時々塞ぎ込む事があった

それが段々に増えていって時には大きな声で取り乱すようになった


そのきっかけは不安や恐怖だった

俺達の将来を案じて不安を感じた時もあった

一番多かったのは先生の事だった

いつか年老いた先生が先立つ時を思って取り乱していたんだろう

先生が必死になって落ち着かせていたんだが

最後の方は母様が落ち着ついた後の部屋は一面凍っていた事もあった


母様が山に籠るきっかけになったのはリッカの事だった

リッカも将来自分と同じ苦しみに見舞われるのではないかと

そしてその不安から逃れるためなのか

リッカに向かって尖った氷を突き立てた

先生の炎が氷を溶かすと我に返った母様は白い羽になって去って行ってしまった


先生は子供だった俺達にも分かるように時間をかけて教えてくれた

アキにはもう分かっているかも知れないが

母様はリッカの為に長い間眠っていたのだそうだ

眠りにつくのはそう難しい事では無い

目覚める時が危険なのだと先生は言った

極限まで自分の力で氷より何倍も冷たくなって眠りにつくのは簡単で

それを暖め人の生きていける温かさにするのが多々良の守人の力だと

力加減を間違えれば命を落としかねないと


先生は全て自分のせいだと言った


母様を目覚めさせる時に先生は

母様の心を司る何かを壊してしまったのではないか

そのせいで母様が不安に取り込まれてしまうようにしてしまったと


それから先生は屋敷を留守にするようになって見る見る痩せて行った


そしてそれから三年経ったある日皆を呼んで

アキがいつかやって来ることを告げ

しばらく留守にするとサクヤに乗って行ってしまった


すまないがそれから後の事はもう少し落ち着いてから

手紙でなく俺の口から話したい


アキはリッカを救う手立てをもう考えているのだろう

少しでも役に立ちたくて

黙っていた事の罪悪感から逃れたくて

皆を代表して綴らせて貰った


スズキ ゲンノスケ




アキヨリは手紙を丁寧にたたみ

ふんどしにしまった



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