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六角の花   作者: フミ
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宵の明星

夏の宵の明星は低い空に輝く

イカダの一行がそれを目にしたということは既に辺りには木々は無く

ホウライ山と呼べる領域の外へ出た事になる

見渡せば水田が広がりその先には二、三十軒の集落がある

人の営みの気配というものを久しぶりに五人の陶芸家達は感じていた

人間であればそれは安心に繋がるものだろう

だが長年人里離れた山奥で暮し

さらに追われる身となった五人には心をざわつかせるものであった


五人の心をざわつかせる物がもう一つ現れた

下流に船らしき影が現れたのだ

漁に使うような物ではなく屋根のついた屋形船のように見えた

屋形船を持つような家がこんな里山にある筈はない

何者かが何らかの目的を持ってここにやって来たことになる


「ジョ、ジョスイさん!ふ、船!」


ゲンが船を指差しジョスイの肩を叩いた

その様子をリヨウも気付き夜目が効かないながらもゲンの指差した先に目を凝らした

だがなぜかすぐに目を伏せ眠ってしまったようだ


「リ、リヨウ!こ、困る!」


「ゲンの字、見えんのかい?

他の皆も見えるみてえだな

やっぱり景色のいい所で暮らすと目が良くなるみてえだな

心配には及ばねえよ、あれは俺達が用意した船だ

こんなイカダじゃ鷹の野郎も目立っちまうし海まで行けやしねえからな

ちゃんと寝床も用意してあるからよ

揺れて寝心地悪いだろうがゆっくり休んでくれ

ああ、それと前もって言っとくがイカダは重たくて中々止まらねえ

多分止めてやれねえからすれ違い様に飛び乗ってくれ」


リヨウは視覚以外の何かで安全を確信したのだろう

間も無くイカダは屋形船に追い付き

イカダの接近に気付いた屋形船も錨を上げ下流に進みだした


「それじゃあ ご婦人方からご乗船願うぜ

野郎共!間違っても落っこどすんじゃねえぞ!」


乗り継ぎはジョスイ達が手際よく立ち回りあっけなく済んだ


「それじゃあ皆さん方 どうかご無事で」


材木のイカダだけ漂流していたら怪しまれて当然である

材木の集積所へと向かう為イカダにジョスイの手下が一人残った


五人の陶芸家達は船室に入る前に示し合わせた訳でも無く

もう一度宵の明星を見上げていた


「みんな、知っていたか?

宵の明星と明けの明星は同じ星だというらしいぞ」


足が動くようになったばかりのアキヨリの姿が見えなくなり

またどこかに行ってしまったかと皆心配して探し回った挙句

屋根の上に寝そべっているところが見つかり

心配するやら呆れるやらで見上げる皆に放った言葉がそれだった

その後は皆も屋根に上り同じように寝そべって星座を見上げた


おそらく屋根のある所でこの夜を過ごせはしないだろうアキヨリを思うと皆船室に入るのは躊躇われた


ジョスイには分かった

そんな思い出はわかるはずは無かったが分かった

だが放っては置けない誰がどこで見ているか分からないのだ


「若大将ならきっと無事だ心配いらねえよ

それにな若大将が望んでる事ってなんだい?

考えなくたって分かるだろ?

今は若大将の為に布団に入って眠るんだ

なっ?」


そうアキヨリは無事である

皆確かに感じていた

アキヨリも宵の明星を見上げている


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