149/788
何も残すことなく
振り向いたが木々に遮られもう見えはしない。
だが目を背けはしない。
振り向いたまま不自然な格好で泳ぐアキヨリをアクヤが追い越して行く。
アキヨリの泳ぐ速度が鈍ったのではない、
アクヤの胴はもう半分以上水面の上に出ている、川底に足がついているのだ。
アキヨリを追い越した少し先でアクヤは立ち止まり振り返った。
その顔は「もういいか?」と尋ねているようだった。
アクヤには確信があった、だから待った。
以前とは違う、アキヨリの心は、いついかなる時も必ず前を向くと。
その時は直様訪れた。
アキヨリは静かに前を向きアクヤに追い付き、その背に跨りその首を撫でた。
「行くぞ」
静かに力強く覚悟を纏った跳躍を繰り返し、川を脱したアクヤが駆ける。
アキヨリが背に受けるヒデカツを救おうと立ち上がった者達の鬨の声は、引き留めるものではなく寧ろアキヨリの背を押した。
「ドーマン…」
アキヨリは術を使わなかった。
ヒデカツの視線を盗み見、その安否を確認することは彼の生還を疑う行為のように思た。
「再び相見えようぞ!」
浅瀬を水飛沫を上げ走るアクヤは足跡も残さなかった。




