心の父
天と地が交互に現れ肝心なものが目に映らない
俯瞰より目に映るは一部が欠けた橋
アキヨリとヒデカツが渡っていた全長半町、幅六尺、川の水面より高さ五尺の橋が
アキヨリとヒデカツが位置していたであろう箇所の中間地点が
渡って来た岸から十二尺の箇所を中心にハ尺程消えて無くなっている
そしてそこに存在していた橋の一部は木片となりアキヨリの周りに存在していた
爆破されたのだ
しかし爆発の直撃は避けられたようだ
手が二本、足が二本、そして動く
「アクヤ!どこだアクヤ!」
アキヨリが以前として目に映らない肝心なものの名を呼ぶと
腕を噛まれ掴まれグイッと引っ張られアキヨリは未だ空中ながら定位置へと帰還し回転から開放された
「無事だったか!アクヤ!
ヒデカツ!ヒデカツはどこだ!」
爆発のあった箇所はアキヨリとヒデカツの中間だったアキヨリは斜め前方に飛ばされこのまま行けば川の中程に着水するだろう
当然ヒデカツは今来た岸、兵の一団側に飛ばされただろう
そちら側の岸に目をやると倒れた一頭の軍馬と
倒れた巨大な伊勢海老のような甲冑に群がる兵
「ヒデカァァァァァツ!!」
バシャャャャン!
一瞬だけ映ったヒデカツの姿は水飛沫に掻き消され見えなくなってしまった
続いて水中のぼやけた只の青だけが視界を支配した
川の水位は思ったより深く
思ったより高く飛ばされていたらしく
アキヨリは潜り行く力と流れに逆らえず只川底へと飲み込まれて行った
ヒデカツは夢を見ていた
「兄上達はどうしてあんなに辛くあたって来るのだ」
「それはヒデカツ様が羨ましいので御座います
算術、武芸、何でもお上手にこなすヒデカツ様を嫉妬する者はこれから沢山現れましょう
しかしそれが才を持って生まれた者の定
与えるのです、ヒデカツ様は与える人間なのです
皆の気持ちをよく考え必要としているものを与えるのです
そうすればいつかヒデカツ様の周りは笑顔でいっぱいなりましょう」
物心ついた時からヒデカツの傍らには常に
白い顎髭の笑顔があった
実の父に仕えていた セキカワ ロクスケである
「ヒデカツ様ヒデミツ様を恨んではなりませぬぞ」
「幾度も幾度もお前の口から聞かされた
恨んでなどおらぬ、むしろ感謝しておる
何も心配する事など無い」
白い顎髭は最後まで笑顔だった
「ヒデカツ様、アキヨリ様が呼んでおられますぞ
いつまで眠っておられるか!」
「そうであったか
なあ、俺は父上、いやヒデミツに認められたくて躍起になって何事にも励んで来た
アキヨリのようになりたくて皆の為に尽くして来た
お前の言うように与えて来た
だがこの有様だ」
「損をしたと思っておられますかな?」
「いや、お前の言うように俺の周りは笑顔だらけだった
だが俺のせいで台無しだ」
「はたしてそうですかな?
ほれっ!耳を澄ましなされ
聞こえませぬかアキヨリ様の声が」
「ああ、聞こえているよ
胸が潰れそうだ あんな声で俺を…」
「もう立てますかな?」
「おお!見ていてくれ!」
「頼もしゅうなられました」
ヒデカツは白い顎髭の笑顔を胸に刻み立ち上がった
そして目にした
それは横一列に並ぶ十四の鉄砲
だが狙いはヒデカツではない
十四の銃口の延長線が重なるは川面の水の盛り上がり
それは急速に浮上するアクヤがもたらす弾丸が簡単に貫通する水の天蓋
ヒデカツが咄嗟に足元に転がるアキヨリの投げた槍を拾うと響きわたるい居丈高な声
「ここにヒデミツ様の書状がござる!
謀反人ヒデカツ並びにその首謀者シジマ アキヨリを密かに誅殺せよとある!
皆の者真の敵はこの両名なるぞ!」
ざわめき立つ兵
立ち上がったヒデカツに気付き狙いをヒデカツに定め直される二丁の鉄砲
「でいりゃゃゃゃゃああ!!」
煌めいたのはヒデカツの武勇
疾走するは槍の切先
バァァァァン!
交差するは銃声とヒデカツの雄叫び
弾け飛んだのは十四の鉄砲
そして伊勢海老を形どった赤い甲冑
バッシャアア!
「ヒデカァァァァァツ!!」
水の天蓋を破り再び肺腑に大気を満たしたアキヨリは力の限り叫ぶ




