真っ正面
「どうする?アキヨリよ
まさか真正面から行くのではあるまいな」
「そのまさかだ、俺に落ち度など無いコソコソ隠れて行くなど癪に障る」
「待て!お前の家族達はどうしているのだ
まずはその者達を逃がすのが先決だろう!」
「案ずるに及ばん 今頃は既に下山している筈だ」
「なんと!この短い間に
流石はお前だ
どんな手を使ったのだ
俺の浅知恵など初めから及ばなかったという事か
しかしどう見る
この布陣お前でも突き破るのは難儀だぞ、それにこの奥が良く見て取れん」
緩やかな下り坂を行くアキヨリとヒデカツの眼下には開けた土地に約三百の兵
その奥には主に柳が密集して生えその柳の林を貫き麓に続く細い山道が続いている
柳は水辺の植物である林の向こう側には川があり道があるということは橋があるという事だ
その山道から次々と兵が現れて来ていた
「このホウライ山より逃れる道は三つ
この南の沢と西の沢そしてアトウ領に続く険しい山脈越えの道
俺がヒデサトならば先ずはその三ヶ所より兵を入山させ
そこから広範囲に展開し徐々に包囲を狭め最終的にはリッカの屋敷に集結する手段を取る
リヨウは千の兵と伝えて来た
それを三つで割れば約三百
ほぼここに割り当てられた兵全員がこの奥の橋を渡りきったところだろう」
「なるほど
この奥には橋があったな
全員が渡川し展開した後の方が突破し易いのではないか?」
「各隊に狙撃手を割り当てた場合
いや、おそらくそうして来るだろう
狙撃手は身を隠しながら隊に追従する筈だ
鉄砲を暴発させられる俺とて不意に撃たれれば無防備だ
一方人間の集団に突然の選択を迫れば必ず混乱する
それが俺の狙いだ」
「お前らしい
それなら俺に考えがある!」
「ならば任せる、行くぞ!」
アクヤは真一文字に三百の一団へと向って行く
それは当たり前の如く一団の知るところとなる
「シ!シジマ アキヨリ!
皆の者!アキヨリが現れおったぞ!」
真正面から現れる筈の無い者が真正面から現れた
一団は浮き足立った
しかし浮き足立ちながらも着実に戦闘体制は整えられていく
アキヨリの術を警戒してか全員が
鉄砲ではなく弓を構えた
こういった場合も想定されていたのだろう
「待たれぃ!待たれぃ!皆の者!」
弓の射程ギリギリで横を向いたアクヤの馬上
アキヨリの後ろから現れたヒデカツの声を聞き姿を見
アキヨリに向けられた矢じりは地に向けられた
「皆の者!ヒデカツである!
此度の騒動はこの山に立て篭もるサナガ ジョスイの残党が企て!
アキヨリが俺を討とうとする筈は無い
兄上もそれに気付かれた!
アキヨリが呼んでいると謀られ囲まれた俺を兄上とアキヨリが救い出してくれたのだ!
兄上は未だ残党共と交戦しておる
援軍に向ってくれ!
この山道の先一里足らずのところだ!」
「承知!!」
「おう!」
気の早い武辺者数十名が山道を駆けて行った
「すまぬ!
俺は迂闊にも見ての通りの有様だ
城に戻らせてもらう」
血に塗れたヒデカツの声に兵の一団は二つに割れ道を開けた
アキヨリは当然の様にその中にアクヤを進ませて行った
いちいち目を向ける事はしないがが注意深く辺りを探るアキヨリの視界の端には
道を開けはしたがいぶかしむ表情を現す顔も数多く見える
だが援軍に向かった気の早い者達とは違い自ら先ん出て行動しようとはしない
「流石に肌が粟立つ
今一斉に掛かって来られたらひとたまりもないな
だが規律を重んじる者とそうでない者、見事に仕分けたな
流石はヒデカツといったところか
」
一団の中程まで進み林の奥の橋を視界に捉えた頃アキヨリは一つの疑問に行き当たった
「この隊を率いている者はどいつだ?
なぜヒデカツが現れたというのに顔を出さない」
アキヨリがヒデカツを振り返ると同じ疑問を持っていたのだろう
それを合図としたかのように誰にともなく一群に向かい問うた
「この隊を率いている者は誰ぞ」
「拙者で御座る!」
その声を待っていたかの様にその者はアキヨリを遮り立ちはだかった
「アキヨリ殿は暫し待たれぃ!
ヒデカツ様は我等が城にお連れする!」
アキヨリの行く手を遮ったのはそれだけではなかった
二本の槍がアキヨリの胸元に突きつけられた




