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六角の花   作者: フミ
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一輪差し

「仲間の命は助けると申したではないか!!」


ヒデカツは立っている


「ううっ…ううっ…」


「ああっ…」


「んんん…」


足元には川中衆の呻き声が転がっていた

ついさっきまでは


「ヒデカツ様!お逃げくだされ!」


「騙されてはなりませぬ!」


などと呻いていた川中衆は骸となりつつあった


アキヨリと出会した小さな天満宮からリッカの屋敷に向い

馬で一時半程の急に道幅の狭まる山道にヒデカツは赤く同胞の鮮血に染まり

自分を囲む様に倒れる川中衆の花生けに咲く一輪差しと化していた


「ヒデカツよ冗談を申すな

お前の命と引き換えに そいつ等を助けなどしたら自分の命を脅かす者を増やす事になろう?

さっきの仲間の命を助けるというのは冗談だ…

ああ!俺の冗談に冗談で返したのか

はははは!冗談なんぞに命懸けになってどうする」


「卑劣漢!ヒデサト!

貴様と同じ一族の血がこの俺に流れているなど忌々しくてたまらん!」


「はははは!はははは!

それは忌々しいだろう

何しろ俺は弟を裏切り

お前は親友を裏切ったのだからな

俺達は身を以て兄弟だと証明したのだ

はははは!」


ヒデカツの身体から何かが失われた

ヒデサトのその一言で身を呈して仲間を守る若侍から

権力欲と劣情から親友を裏切った生ある肉体に死に腐れた精神を持った餓鬼と化した

ヒデカツはたった一言発する力も指一本動かす力も失った


「なるほど、なるほど

道幅の狭まるこの地にて背後よりヒデカツ達に鉄砲を浴びせたのだな

ヒデカツよ俺を追うあまり自分が追われている事など想いもよらなかったのか?」


「!!!」


「シ!シジマ!」


何の前ぶれも無かった

そこにいた者すべての視線はヒデカツの背後にある一度倒れながらも根をはり直し

道幅を狭めるように斜めに生えるクヌギの大木に注がれた

突然現れたアキヨリは木の幹に付けれた弾痕をさすりながら

ヒデカツと名を呼んだが誰に向かうでも無く独り言の様に言葉を連ねる


「これはヒデサト殿!久しゅう御座る

ジョスイに囚われておった我が兵が大変世話になっておる様子

深く御礼申し上げる

ところで拙者の世話になっている屋敷に拙者をヒデカツの仇とばかりに押し入って来た者がおりましてな

名を名乗るにサカキ何某と申しておった

ヒデカツ殿の直臣に心当たりがあられよう

拙者の目にはヒデカツは未だ健在と見える

何故このような誤解が生じたのか分からんがご家中に広まっておるなら鶴の一声でこの騒動鎮めては頂けぬか?」


「!!……」


ヒデサトは微動だに出来ない

アキヨリに話を合わせようにも自らの奸計を曝露し開き直ろうにも自分に都合が悪くなる

アキヨリは以前として誰とも向き合わず後姿で更に続けた


「いや、いや、これは失礼つかまつった

兄弟喧嘩の真っ最中であったか

しかし拙者もよく兄弟喧嘩したものだが喧嘩に使う道具といえばゲンコツと相場が決まっておった

鉄砲が兄弟喧嘩の道具とあれば最早 弟ヒデカツはいらぬと見える

いらぬなら貰い受けるぞ!

アクヤー!!」


ヒデサトの背後の山道から全速のアクヤが現れヒデサトの一団を突っ切った


「ヒデカツゥゥゥゥゥ!!」


「むぐぅ!!」


突如アキヨリは振り向き血だまりの中心へ赤い泥跳ねをあげ駆け出した

そして一輪差しの腹に右拳を捻じり込み花生けから引き抜き肩に担ぎ走り来るアクヤに飛び乗った


「おさらば!」


残されたのはその一声と一本の巻き物

その際アキヨリは結んであった紐を強く引き巻き物を広げ宙に舞わせた

それは地に落ちる寸前に燃え上がり周りの木々を巻き込み炎の壁となった


「追え!逃がすな!取り返しがつかんぞ!」


追ったところで始めから速度に乗ったアクヤに追い付く筈は無く

炎の壁は時折腕を伸ばしヒデサト達を取り込もうとした

ヒデサトが追えと命じたのは体裁を保つ為だった

結局先程から鉄砲を構えていた者達は一人としてアキヨリの術を恐れ発砲しなかった

アキヨリとて一度に火縄銃を何十丁も暴発させられはしない

せいぜい五、六丁が関の山だ

だがその五、六丁になる覚悟がある者など一人としている筈は無い

皆大勢の中の一人としか生きた事など無いのだ



「アキヨリ!下ろせ仲間と死なせてくれ!」


「トミナリ城のシジマの兵達は今どうしている?」


「下ろしてくれと言っているだろう!後生だ

お前に救われるなど耐えられん!」


「シジマの兵はどうしているかと言っているだろう!!」


「ひっ!

国元に送り返されたはずだ

野蛮な坂東武者など好かんとあの人非人…いや俺もそうだ…

ヒデサトがそうしたと聞いた」


「ならば殺しておけば良かったか

だがあのツラ見ずに済んだ」


ヒデサトの顔にはいついかなる時もこびりついていた

ナリカワ家当主である父ヒデミツに向けた媚びた作り笑いが

突然アキヨリが現れた時も炎の壁がそびえ立った時もニタニタ笑っていたに違いないのだ



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