ドーマンの術
シマの国では海女として働く妻が無事帰るようかけるまじないに
セーマンとドーマンというものがあった
セーマンは五芒星
ドーマンは九つほどの目のある格子
五芒星の一筆書きは書き始めと終りが繋がり
元いた場所に帰るそして魔物の入り込む余地が無いという二つの意味を持つ
一方ドーマンは格子には幾つもの目があり、その幾つもの目で見守るという意味を持つ
それぞれ星と格子の記号を身に付ける物に刺繍などして記すのがこのまじないである
幾つもの目
妻の無事を祈る強い想いが船上で待つ漁夫に三つ目の目をもたらしたという伝承があった
海中の妻の様子を手に取るように見る事が出来るというのだ
それはお伽話では無かった
アキヨリはイセ、シマ両国の攻略を成し遂げた際
協力してくれた漁師、海賊達を伴い船上で馬鹿騒ぎをした
その時笛を吹きながら海に落ち
あろうことか首のお守りを海中深く落としてしまった
白い玉の記憶を操作し閉じ込めておく力が影響しリッカの事を忘れていたアキヨリだが
狂ったように泣きじゃくり
ばらばらになった白い玉と青い玉を探し潜水を繰り返した
不憫に思った一人の老漁夫がアキヨリの舟に乗り込んで来て
石を結び付けた紐を海中に垂らし
「この紐を辿り潜れ」
とアキヨリを導いた
「あった!ありましたぞ!御老体!」
老漁夫の落とす石はアキヨリの落としてしまった玉のすぐ隣に落とされていた
そのお陰で翌日には全て拾い上げる事が出来た
探し終わるまで半狂乱であったアキヨリはやっと当たり前の疑問に行き当たった
「御老体!なぜ分かったのです?!」
「見えんだよドーマンの術じゃ
ひーひーひー爺ちゃんがセーメー様に教えてもらったんだと」
「陰陽師のセーメー様ですか?!」
「そうだよ、見つかってよかったな
おらぁくたびれたけどよ」
「かたじけない!かたじけない!
ところで御老体、かたじけないついでに摂社にその術御伝授頂けぬか?」
「いいよ だけど難しいよ
十年くらいかかるかな?」
「十年!とても無理で御座るが挑戦させて下され!」
「いいよ お武家さんは忙しいもんな」
アキマサから貰った一ヶ月の休暇を修行に明け暮れ
老漁夫のように広範囲を見渡すには至らなかったが印を付けた所の様子は見る事が出来るようになった
「凄いね、まさか出来るようになるとは思わなかったよ」
「いや!まだまだ修得には程遠く
いつかまた修行の続き、つけていただけぬか?」
「いいよ、あんちゃんいい奴だかんな
いつでもおいで」
「左様ならば」
「またね」
アキヨリの閉じた目には最後に付けた印からの視界が朧げながら映る
まだ何がどうとは判別は出来ない
その印とは大木の影から人差し指で突いたヒデカツの眉間
「ヒデカツは俺を追って来た筈だ
それが終ぞ現れなかった
何を見るかヒデカツよ!」
我が目に映るは、馬上の流れる景色か、ただの闇か、それともヒデカツの胴体か
無意識にヒデカツの身を案じていた自分にアキヨリは苛立った
次第に閉じた目の視界は鮮明になっていく
それは数十人の甲冑姿
その中心にナリカワ ヒデサト
ヒデカツの兄 ナリカワ ヒデサト
血を分けた兄弟の邂逅に兄はその面に何を現すのか
だが周りの景色で場所を特定したアキヨリはすぐ目を開けてしまった
「見たくないものは見たくない」
自分を裏切ったヒデカツの安否、所在を確認しアキヨリは何をしようというのだろうか




