南無八幡大菩薩よ
遠ざかっていく
皆にとってはアキヨリが
アキヨリにとっては家族が息子が
そしてこうしている間もリッカとの距離も遠ざかりつつあるのだろう
あの猛吹雪の日以来彼らがこれ程の距離を離れた事があっただろうか
特別だった そしていつの間にか当たり前になっていた
籠の進む先には杉の大木があり僅かな間だが籠は杉の木に遮られ見えなくなるとアキヨリは綱の結び付けられた巨岩に登り視界に籠を取り戻した
だがもう笑っていようが泣いていようが家族達の表情はアキヨリには見えなくなっていた
「八幡大菩薩よ我が家族守り給え!」
パンッ!
何かを振り切るように柏手を一つ打ちアキヨリは岩を飛び降りその勢いそのままに雑木林を駆け下りて行った
「ああ!ああぁぁぁ!」
アキヨリの姿が岩の影に隠れ見えなくなるとマイは顔を手で覆い肩を震わせ始めた
チョウキチはマイの膝の上にアキヨリの脇差しをそっと乗せた
「アクヤー!!」
木々の間を木の葉を舞い散らせアキヨリは愛馬であり息子であり弟であるアクヤの名を呼んだ
一人にではない事を確認したかったのか
「シジマ殿ー!」
代わりに返事をしたのはアキヨリが倒した騎馬武者達にとどめをさしていたジョスイの手下達だった
ズババババ!
「うわあああ!」
手下達がアキヨリが現れるであろう木の幹の間を注視していると十六尺はあろうかというクヌギの木の上からアキヨリが飛び出して来た
斜面の途中で跳んだのだろう
「これはすまん驚いたか?」
アクヤのすぐ隣に着地したアキヨリの周りに六名が腰を抜かしていた
手には手綱や鞍や鐙など各々馬具を握っている
「シジマ殿道中長う御座る
裸馬では骨が折れましょう
剥ぎ取った物で良ければお使いくだされ」
「ありがとう、ただ鞍だけはアクヤがでかすぎるから使えんな」
手慣れた手つきでアクヤに寸法を合わせながらアキヨリは手下達に声をかけた
「皆ジョスイの手の物か?
使い走りと言っていたがジョスイなど使っていてはニザエモン殿も何かと面倒事に巻き込まれよう
なぜニザエモン殿はジョスイなどを手元に置いておくのだ?」
「それぁ俺達の口からはなんとも
直接旦那の口から聞いてくんなぁ」
キリュウ同様ジョスイの喋り方が感染した一人が答えた
「そうだな、世話になった!
皆とはサカイでまた会えるのだろう?!」
「はっ!」
「へい!」
「そうでさぁ!」
「ご無事で!」
「先に行って待ってんぜ!」
「………」
多種多様な六名一人一人に視線を配り
鞍以外の馬具を身につけたアクヤに飛び乗った
アキヨリが見えなくなるのは手下達が尻もちをついた折りについた尻の砂ぼこりを払い終わるより早かった
「すまぬがアクヤもう一走り頼まれてくれ」
アクヤは心得たとばかりに僅かに振り返りアキヨリを一瞥した
アキヨリも僅かに眼差しを返し答えた
そして両手を目の前で合わせ祈るような格好で目を瞑った
「ドーマン!!」
そして唱えた




