友達のしるし
「んっ!んんっ!」
咳払いし襟元をただし
ジョスイは一言目を長縄跳びに中々入れない子供のように躊躇っている
「えぇと…その…なんだ…
シ!シジマ アキヨリ殿!
貴公の同胞、客人、御世継!
このサナガ アワノカミ ジョスイ…ええと洗礼を受ける前は何て名乗ってたっけな…三月位しかあの名前使って無かったからな…
ああ!そうだ!カズモトだ!カズモト!
サナガ アワノカミ ジョスイ カズモトが我が神デウスに誓い命に代えてもサカイまで無事送り届ける!」
「…………」
「…………」
「…………」
「おめえが急に畏まるから変な感じになっちまったじゃねえか!
とっととあいつら連れて来い!」
アキヨリは俯いたまま頷き踵を返し風のように雑木林の斜面を下りて行った
「きいやゃー!!」
そろそろ雑木林を抜けようかという時オタマの悲鳴がアキヨリの耳に突き刺さった
「オタマ!どうした!!」
一時でも皆の元を離れた事をアキヨリは後悔した
皆がいた場所に転げるように駆け付けると元いた所に一人も欠ける事無く家族達の顔があった
ただ違っていたのはみすぼらしい身なりではあるが体つきは屈強な男が少し離れた所で家族達に向かい何やら話し掛けていた
腰には太刀と脇差しの大小があり侍であると思われた
男が距離をおかなくてはならなかったのはアクヤが睨みを効かしていたからだ
「おい!貴様!俺の家族に何の用だ!」
そう言ったアキヨリの視界の端にはもう一つの異変が飛び込んで来た
先程アキヨリに打ち倒され
あるものは落馬した際に腕を折り
あるものは槍に叩かれ気絶し
あるものはアクヤの蹄に蹴られあばらを折られ
一様に戦闘不能となり地に伏せていた騎馬武者達に馬乗りになり脇差しを突き立てている者がいた
アキヨリが目で追い数えると六名である
「うわっ!シ!シジマ殿
誤解せんでくれ俺らはジョスイの旦那の手下なんでえ」
「ジョスイの?」
「きいゃー!」
アキヨリが男に名を呼ばれ振り向くと 今度はマイが悲鳴を上げていた
オタマはタノスケに腕で顔を覆われている
マイの視線を辿りまた振り向くと血飛沫が目に飛び込んで来た
血飛沫を上げた騎馬武者は殆ど意識が無かったのか断末魔らしい断末魔はあげなかった
「殺す事はなかろう!」
「あめえよ!
あいつらを始末してどっかに隠しておかなきゃ後から来たヤツらにあんたらがここから逃げた事がバレちまう
仲間とそいつら幾らでもそこいらに転がってる石ころ侍とどっちが大事なんでえ!」
家族達のそばにいた男に乱暴に諭されまた振り向くと見知った顔だった
「おお!久しいな お前はタネフサ殿の寄騎であったな
達者でいてくれたか…しかしそんな喋り方だったか?」
アキヨリの胸にアカイ タネフサとの一騎打ちが去来した
「お、俺の事を覚えててくれたんですかぃ?
この喋り方はジョスイの旦那のがうつっちまったんでぇ」
「忘れるものか!そなた等はタネフサ殿に最後までよく付き従い誠の忠臣であった」
「最後まで付き従ってなんかねえし忠臣なんかじゃねえ!
俺はあんたに逃がしてもらったんじゃねえか!」
「タネフサ殿が望んだ事だ
お前が生きている事はこうしている今でもタネフサ殿の
「生きて乱世を見届けよ」
という下知を良く守り忠臣でいるという事ではないか」
「うおおおおおおおお!
やっぱり来て良かった!
俺はあんたが生きてるって聞いて居ても立っても居られなくなって命が危ねえって聞いてどうしても借りが返したくて
いや!恩返しがしたくて
俺もあんたの仲間と一緒に行くよう言われてんだ
だけど中々信用してくんなくてよう」
「うむ、お頼み申す!
キリュウ マサナオ殿
皆!マサナオは信用出来る男だ
この雑木林の上から麓まで下りられるよう設えてある
行こう!
アクヤ暫し待っておれ」
「覚えててくれたんですかぃ?名前まで…ううっ…」
アキヨリは皆を馬から下りるよう促し惨劇から皆を庇うように雑木林に導いて行った
もしやここでアキヨリと別れなくてはならないのか
アキヨリがアクヤを待たせた事に皆不安がった
「皆、聞いてくれ
この上には麓まで綱が渡してあって頑丈そうな籠がぶら下がっている
それに乗って山を下りてくれ
だがさすがに馬は乗れそうもない
俺はアクヤと山を下りる
だが心配はいらない
武名轟くこのマサナオとサナガ ジョスイという悪知…
いや、西国一の知恵者が同行する
そして何より全てはニザエモン殿の手引きだ
行き先はサカイ!おそらく船を使うだろう
俺は必ずその船に合流するそれまでの間 男達はよく皆を守ってくれ!」
やはりアキヨリと暫く別れなくてはならない皆不安は隠しきれない
しかしゲン、タノスケ、チョウキチはより危険な道を行くアキヨリに余計な心配をさせるものかと眉尻を吊り上げた
「おう!お見通しだな若大将
クレの港から西に十里の岩礁で五日後の子の時待ってるぜ
真昼間じゃねえからな夜中だぞ
五日後、西に十里、子の時、
忘れんじゃねえぞ!」
岩に腰掛けたジョスイが答えた
皆もう斜面を登りきり綱と籠を目に捉えていた
そして更に不安を膨張させた
高さ距離、怖くない方がおかしい
「ゲン、タノスケ、チョウキチ」
アキヨリは三人に腰から脇差しを引き抜いて
ゲンにはアキマサの脇差し
タノスケにはイエナガの脇差し
チョウキチには自らの脇差しをそれぞれ渡した
「日の本の守護神アキマサ、イエナガがそなたらをお守り申す!
チョウキチにはすまんが俺ので我慢してくれ」
三人は震える手で受け取った
だがそれは恐怖からではない
「ア、アギ!だめだ!こ、これは大事な大事な お、お兄さんの形見!」
「違うぞゲン これは友達の印だ!
受け取ってくれ!
ま、もっとも後で返してくれよ」
「ううっ、わ、分かった!俺達にまかせろ!」
皆はマサナオにうながされ籠に乗り込んで行った
「うむ!次はリヨウ!お前は皆と空より同行し妨げる者をいち早く察知し掃討しろ!」
アキヨリはリヨウに巻き物を一つ投げた
リヨウはくちばしで咥えると一旦木々に身を隠した
「ジョスイ、妙な気は起こすなよ
リヨウの巻き物あいつの身に何かあった場合その体から離れれば火炎が仇なす者を焼き尽くすぞ!」
「よっぽど信用がねえみてえだな
まあいいさ
一つ言っとくぜ
頭に血が登ってんだろうが間違っても奴に斬り込んでなんか行くんじゃねえぞ!
それじゃあな
あばよ!」
最後にジョスイが籠に乗り片足で岩を蹴ると籠は緩やかに動きだし次第に速度を上げて行った




