てめえをぶっ殺してでも
「サナガ ジョスイ!!」
不覚にもアキヨリはたじろいだ
突然の宿敵の出現
そして何よりその異様な輪郭
「おう!久しぶりだな若大将!
思い出話に花を咲かせてぇ所だが時間がねえ
ちょっと顔貸しな」
「貴様にかまっている間などない!
リヨウそいつの目玉をえぐれ!」
リヨウに指図したアキヨリはジョスイに向けた視線を僅かに上に向けただけだ
つまりリヨウはジョスイの頭の上で額に爪を食い込ませすまし顏を決め込んでいた
「相変わらずだな若大将
ちっとは俺の現れた理由なり考えねえのかよ
これを見な!」
ジョスイは自分の履いていた草鞋をぬいでアキヨリに突き出した
「それは!俺の草鞋!
ニザエモン殿が間違え…いや間違えた訳では無かったな
どういう事だ!」
「頭の回転のいいおめえの事だ見当はついてんだろ
おめえの考えてる通りでいいと思うぜ
つまり俺は四十万石の大大名から豪商の使いっ走りになった訳さ
使いっ走りってのはな
いくら気に入らねえ奴でも親分に連れて来いと言われたらホイホイこんな山奥までやって来んのさ
おめえ達を逃がしてサカイに連れて行く
ついてきな!」
「信じられるか!」
「信じる信じねえじゃねえよ
山道だけじゃねえ獣道まであらかたナリカワのやつらに封鎖されてんぜ
おめえは俺の言う通りにするしかねえんだよ
それにだ、この草鞋とこの鷹が俺の目玉をえぐらねえのを見てまだ信じねえってのは石頭過ぎるんじゃねえか?
鷹!この石頭を案内してやれ」
ジョスイに指図され一瞬ムカっとなったリヨウだったがジョスイの頭から飛び立ち雑木林の中に消えて行った
「おい!リヨウ!待たんか!」
リヨウとってジョスイは目の敵である
それがアキヨリの「目玉をえぐれ」という言葉には従わず
ジョスイの言葉には渋々ながら従った
その理由がこの雑木林の中にあるのか
アキヨリはアクヤに乗ったままで行くには木が密集し過ぎる雑木林の中にアクヤから飛び降りリヨウを追って行った
「そうだよ若大将
初めっから そうすりゃいいのさ」
ジョスイも続いて雑木林の中に入って行った
「なあ、若大将ついさっき迄の事その不思議顏に教えてやろうか?」
アキヨリは振り返りもせず答えた
「無用!」
「いちいち腹立てんじゃねえよ
めんどくせえから勝手に話すぜ
さっきよぅおめえ達の大切なもんぶっ壊した奴がいたろ?
そん時鷹の野郎も見てたんだ
このままじゃあのいけすかねぇあの野郎の所に飛んで行っちまう
汚ねえ事する奴は臆病者だってのは相場が決まってる
鉄砲なり隠れた奴がいる
頭に血が登ったまんまじゃピューって行ってズドン!だ
で、俺は鷹の野郎を呼び止めたんだ」
「......………」
「おい!それでどうしたとか合いの手はねえのかよ!
まあいいや俺もいちいち突っかかってたらラチが開かねえ
それでな俺の顏見て鷹の野郎が凄え勢いで突っ込んで来やがったから 早まった事しちまったと逃げ出したんだよ
逃げるつったって闇雲にじゃねえさ
おめえ達を助けに来たって言ったって信じやしねえだろうから 確たる証拠ってヤツを見せてやろうって今鷹が向かってる所まで必死で走ったのさ
途中追っつかれて頭をしこたま突かれたがな
で、その確たる証拠ってのがこれだ
見えんだろ若大将!」
アキヨリの髪を山間からの風がなびかせていた
山道沿いの雑木林は斜面になっていてそれを登りきると麓までを見渡す事が出来た
「これは!」
アキヨリの傍には巨大な岩があり
その岩には直径四寸程の太い縄が結び付けてあり
縄には籠がぶら下がっている
切り出した材木を麓まで運ぶ為の物だろう充分仲間を全員乗せられる大きさだ
リヨウはその籠に止り風に揺れていた
「こんな物ここには無かった筈だ!」
「ああ、おめえを訪ねた後ニザエモンの旦那が取引がある木こり達に頼んでここに持って来させたらしいぜ
あの旦那は凄えな お見通しだったんだろうぜ こうなるのは」
「この縄の先の麓にナリカワの兵が潜んでいるのであろう!!」
「おい!いい加減にしろぃ!」
ジョスイは懐から十字架の飾りの付いた馬上砲を取り出しアキヨリに突き付けた
火縄にはまだ着火しておらず もちろん発砲する事は出来ない
しかしアキヨリは火縄銃以上のものを突き付けられた
「いいか!よく聞け若大将!
悪いが俺ぁ一部始終見させて貰ったぜ
おめえならヒデカツの手下なんざアッという間に片付けちまうだろうと鼻歌混じりだったが
雷落ちるわ、急に雪が降って来たと思ったら羽がうじゃうじゃ飛び回るわで肝を潰したぜ
だがな!
そんな事ぁ俺の心をどうする事を出来るもんじゃねえ
俺だっておめえの身の上はちっとは承知してんだ
俺の心をぶっ潰すかってくらい掴んだのはなぁ!」
ジョスイは馬上砲をアキヨリの胸に押し当てた
リヨウはただそれを見つめるだけで何もしようとしない
鷹の視力は光以外のものも捉えていた
「おめえの仲間…おめえの仲間達がなぁ!
ろくに武器なんざ扱った事もねえだろうに!
死ぬ程おっかなかっただろうに!
だけどな!
必死になっておめえや仲間を守ろうとしてやがるのが俺はよぅ……俺は…」
ジョスイは声をつまらせ顏を伏せ
そして直様顏を上げた
「いいか!おめえが首を縦に振らなくったって知ったこっちゃねぇ!
俺はおめえをぶっ殺したってあいつ等を助けるぜ!
いいから早く「うん」といいやがれ!」
アキヨリは馬上砲を握りさらに自分の胸に押し付け 深く深く息を吸い込んだ
「この籠には馬は乗れん!
拙者はアクヤを置いて行く事など死んでも出来ん!
サナガ ジョスイ殿!
拙者の家族と客人そして子息!
どうかお頼み申す!
この通り!」
アキヨリは深々と頭を下げた
誠意には誠意で答える為ともう一つはジョスイにはどうしても見せたくないものがあったからだ




