↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
六角の花   作者: フミ
PR
136/788

多賀 喜郎衛門 影成人呼んで岩斬りのタキ

気付いていたのはアクヤだけではない

陶像のいわれを知らず特別な思い入れの無いイヨ姉様もそうだった



「おい!アキヨリ危ないよ!!」


その言葉がイヨ姉様の口から出たのはアキヨリが吹っ飛ばされアクヤの背に仰向けに寝そべった後だった

それ程に一瞬の出来事だった


アキヨリに腕を折られ気を失っていたノブハルが立ち上がったのだ

だがその様子は異様過ぎた

うつ伏せに倒れていたノブハルが起き上がるには まず腕を使い上半身を起こし 片膝を立て足の力で立ち上がるのが普通である

だがノブハルはうつ伏せのまま首の付け根を見えない紐で引っ張られるように 手足を使わずに飛び上がったのだ

そして直様折られた腕をブラブラさせ 恐ろしい速さで走り出した

ブラブラという表現は全身からも見てとれた

首や折れてはいない右腕そして両足にさえ全く力の入った様子は見てとれない

にも関わらず誰も乗る事がなかった空馬に辿り着くとまた首根っこを引っ張られ飛び上がり跨った

そしてアキヨリめがけ一直線に駆け出すと右腕を真一文字に真横に水平に伸ばしアキヨリの首元にぶちかました

その腕は全身の様子とは逆に渾身の力が込められ筋肉が隆起し

強く握り締められた拳は掌に親指以外の爪が食い込んでいた


アキヨリは顎にも腕を喰らい脳を揺さぶられ脳震盪を起こしアクヤの背に仰向けとなったのだった


それを見た タニザワ ヤノスケ


「ほほう!サカキの坊主もやるものだな

これで俺も腹を切らずに済むというものだ

しかしバカ鷹が来んな

あやつが飛んで来るのだけが恐ろしかったが拍子抜けだ

まぁ、もっともこいつで撃ち落とすつもりだったがな」


ヤノスケは背中に隠した馬上砲と呼ばれる肘から指先程の銃身の短い鉄砲を構えて

アクヤの背に仰向けになったアキヨリに照準を合わせ撃つ真似だけした


「いや、いや、唐津物とは思わなんだ

これは誠に申し訳ない

ところでアキヨリ殿!

聞こえるものなら冥土の土産に聞いておけ!

貴様は俺達裏の人間にとって妬みの象徴だ!

いつでも注目を浴び派手に手柄を上げ慕われ敬われ 屈託なく年中笑ってやがって!

ざまあみろ!

これでてめえもお仕舞いだ!」


アキヨリは脳震盪で意識が定かではなかったが聞こえていた

だが頭には入ってはいなかった

自分に豪腕をぶちかました人物の顔に必死にぐらつく目の焦点を合わせようとして他の事には気が廻らないのだ


「う…あ…」


その人物の名を呼ぼうとしたが言葉もままならない


「クソねずみが何やらわめいておるが アキヨリ様はしばしそのままで

さて皆様方!御怒りごもっともで御座るが本来ならばこの一件

真に腹を立てるべきは奥方様とこの拙者で御座る!

きっと奥方様ならば作り物などより皆様方のお命大事と申されよう

そしてこの拙者に至っては蚊程も感じてはおらぬばかりか また新たに趣向を凝らした陶像をこさえて貰えるものと胸踊らせておる次第!

急ぎましょうぞ敵はすぐそこ迄迫っておりまする

しばしの間は拙者が道を切り開きます故アキヨリ様がアクヤよりずり落ちませぬよう気を付けてついてきて下され!」


ノブハルの口はぱたぱたと動いてはいたが その言葉はノブハルの口からではなかった

いつの間にか現れた無数に飛び交うオニヤンマが喋っているのか羽音なのか定かではないがオニヤンマ達を反響して皆を包み込むように聞こえて来た

普通では考えられない事態に皆面食い声も出せずにいたが

確実に共通してその不滅の忠心に胸を強く打たれたのだった


ド!ドドドドド!!


低い地鳴りが近づいて来た

それは夢か現か定かでなかった皆を現実に引き戻した


「それでは!いざ!!」


ノブハルが馬の腹を蹴り駆け出すと皆それに躊躇なく続いた

ノブハルの右手にはいつのまにか刀身の折れたアキヨリの槍が握られている


中々意識が完全に元に戻らないアキヨリの目には皆の心配そうな顔が糸を引くように次々に現れ

継いで庭の桃の花、黒塗りの門が流れて行った


「早く元に戻らねば!

くそっ!また余計な事を!」


アキヨリが心の中で憎まれ口を叩き手足を必死に動かす理由は一行がさしかかった大きな岩が邪魔をして見通しの効かない曲がり角

その先に三十騎の蹄音


「でぃりゃああああああ!!」


曲がり角を抜けはち合わせした四騎を一薙ぎで打ち払うノブハルの甲冑が緑色に輝いた



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。