惨劇
間の抜けた声 媚びるような物腰
そして突き刺すような黒い悪意
声の主は
身の丈四尺五寸
離れた細い目
四角い顔
痩せた猫背
「タニザワ ヤノスケ!!」
すでにアクヤの背に跨ったアキヨリは青ざめた
瞬時に理解したのだヤノスケのやろうとしている事を
一方ヤノスケは表だった役目で名の知れ渡る筈の無い自分の名前を呼ばれ青ざめ呟く
「ヤロウ何で俺の名を知ってやがる?!
いや、慌てるな俺の名を知っていようが知るまいが関係ねぇ
サカキの坊主があそこまで役に立たねぇとは思わなかった
人に見つからねぇようにそそのかした苦労が水の泡だ
でもな逃がす訳には行かねぇんだよ どんな手を使ってもな
てめえに逃げられたら こんな大事になっちまた この一件画策した俺は腹を切らなきゃならねえんだよ」
ヤノスケは気を取り直しアキヨリから目を離す事なく ゆっくり歩き始めた
「アキヨリ殿のようなお方が拙者の名をご存知とは光栄で御座る
いや、いや、こんな事はどうでもよい
まずは詫びねばなりますまい
全てはサカキ殿の勘違いで御座る」
「乱破!黙れ!白々しい事をぬかすな!!
それに触るな!ただではおかぬぞ!!」
それとはヤノスケの歩む先にある物である
いやアキヨリは者と捉えていた
それはアキヨリに最後まで付き従った十二の勇者の陶像
「いや、いや、アキヨリ殿
了見が狭い事を申されるな
この様に見事な木像 誰とて触れてみたくなるのは心情で御座ろうに
おお!生き写しで御座る!
これはタガ カゲナリ殿で御座るな
戦場でのそなたとカゲナリ殿は頼もしい限りで御座った」
触れるといってもヤノスケのそれは興味から来るものではない
タキの肩を鷲掴みに持ち揺すり傾けた
その度ヤノスケはアキヨリの表情を伺った
「触るなと言っているだろう!!」
タノスケは輪乗りをやめ
ゲンは手綱を握り締め
チョウキチは頭を抱え目を見開き
オタマは赤ん坊を深く抱きしめ
マイは両手で目を覆い
この先起こるであろう事態に堪えようとしていた
皆の心に過るのはリッカの懸命な姿と言葉
「皆!聞いて お願いがあるの
わたしねアキヨリ様を最後まで守ってくれた御家来様達の事を決して忘れたくないの
だから御家来様達を焼き物で作ろうと思うの
でもわたし一人じゃ多分できない
時間をかければできるけど それじゃ駄目なの
時間をかけてしまったら心に焼き付けたつもりだけど
暗かったし僅かの時間しか見られなかった御家来様達の姿はきっと忘れてしまうわ
それが怖いの
人間は誰だってどんな大切な事だって完全に覚えておくなんてできないわ
わたしだってお父様の姿を事細かに絵に描いたり形にしたりなんてもうできない
この前お父様の髭ってどんなだっけって ふと思って思い出そうとしたら思い出せなくて
それが悲しくて悲しくて…
それがアキヨリ様にとっては何百人、何千人かもしれない
わたしアキヨリ様に何もしてあげられないけど
わたしが知ってる十二人の御家来様達だけはいつまでも忘れないように形にしたいの!
お願い!皆!力を貸して!」
皆リッカがいなければ今でも笑う事すら出来なかっただろう
失われた家族以上の家族
リッカの真心が形になった十二人を守る為なら皆命すら投げ出すだろう
だが手が届くには遠過ぎる
知らずに済むには近過ぎる
「やめろおおおおおおおおおおぉぉぉ!!!!」
人間は物が倒れる傾きかどうかある程度は直感で分かるものだ
ヤノスケの手を離れたタキの像は途轍もない長い時間そのあきらかに倒れる傾きだった
いや実際にはほんの一瞬だったのだろう
それは広範囲に飛び散る破片が物語っていた
アキヨリにはその音はなぜか聞こえなかった
その代わりタキがタキでなくなりただの陶器の欠片になる様はなぜか何度もその目に繰り返された
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
タキ!タキ!タキ!タキィィィィィィィ!!!!」
「うわぁ!うわぁ!」
「ああ!ああぁぁぁ!」
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
タノスケは泣きじゃくるオタマを抱きしめ
ゲンは腕を繰り返し振り下ろし叫び声をあげた
チョウキチは自分の髪を引き抜くようにかきむしっている
マイは顔を覆い肩を震わせている
だがそんな事では内なるものをとても吐き出せはしない
「ふざけやがって!!
てめえら侍はクソだ!
何が立身出世だ!何が忠義だ!
主君の為だなんだとぬかすだろうが てめえの欲を満たす為だろう!
こんな美しいもの清らかなものを踏みにじりやがって!!
それを守りきれない俺もクソだ!
もうどうなったってかまうものか!
下郎!!そこを動くな!!
タキよ!タキよぉぉ!!」
駆け出すつもりだった もちろんそれはアクヤも同じだった
だが広範囲を見渡せる草食動物の視界には信じられないものが映っていた
ヤノスケだけを捉えていたアキヨリの視界は真っ暗になった
その信じられないものの仕業で
「さっきからどこを向いて呼んでおられますやら
拙者はいつだってここにおるというのに
気付かなんだかアキヨリ様」




