いい男
「タノスケとオタマは こいつに乗ってくれ」
アキヨリはノブハルとその取り巻き達の置いて行った軍馬の手綱をまとめて握り締め
七頭の軍馬を引きずるように連れて来て
その内の一番の駿馬と見える一頭の手綱をタノスケに差し出した
以前この屋敷にはサクヤという名の馬がおり
皆馬術の心得はあるがオタマは赤ん坊を抱いて行かなくてはならない
必然的に赤ん坊を含めた三人が乗らねばならない その為のタノスケ夫妻への配慮である
「イヨ姉様トウカをお頼み申す
俺は敵とはち合わせした場合を考えアクヤと参ります」
トウカを自分で抱いて行こうかと思ったアキヨリだが
一人だけ甲冑を纏った自分は最悪の場合飛び道具から皆を守る盾とならねばならない
我が子はイヨ姉様に託した
「分かったよアキヨリ
で 、誰の後ろに乗ればいいんだい?」
いそいそと近付いてきたアクヤからトウカを譲り受け ねんねこを胸に結い付けながらイヨ姉様はゲンの顔を見ながら言った
「わ、分かった ね、姉様
ア、アギ俺に任せろ」
ゲンは素早く馬に乗りイヨ姉様に手を差し出した
「ありがとうゲン!
俺もゲンに頼もうと思っていた
マイとチョウキチも好きな馬に乗ってくれ
どの馬もよく調教された良い馬だ
だが姉様なぜゲンに?」
「顔だよ顔
それ以外に何があるって言うんだい
あーきゃきゃきゃきゃ」
容姿を褒められ慣れていない複雑な表情のゲンの赤い顔のすぐ後ろにイヨ姉様のニコニコ顔がすでにある
皆行動は素早いすでに馬に乗り込み
タノスケ夫妻などは馬の様子を確認しようと庭の中をグルグルと輪乗りを始めている
後はアキヨリの騎乗を待つのみだ
「俺が遅れを取るとは
敵は南の山道から来るだろう
とりあえず西の沢に向かおう
リヨウ!先行して様子を探ってくれ!」
飛び立つリヨウを見送るアキヨリはアクヤの鐙に左足をかけたまま一瞬体を強張らせた
予期せぬ事が興った
「アキヨリ殿!お待ち下され!」
聞き慣れぬ声を見上げるとゴクラクサイの墓のある高台に人影があった




