侍の子
背中に懐かしい衝撃を受けアキヨリは吹っ飛んだ
片足で立っていたとはいえ 彼を身の丈程吹っ飛ばすのは至難の技である
しかしアキヨリは過去に数えきれない程体当たりを喰らい吹っ飛んだ事がある
その数は仲間を侮辱された数と一致し吹っ飛ばした人間はただ一人
タガ キロウエモン カゲナリ
その一人の名がアキヨリの頭に浮かび そして口から飛び出した
「タキ!」
アキヨリは一瞬奇跡が起きたのかとおかしな妄想に囚われ振り返り体当たりしてきた人物を見た
「ア!アギは!アギは!も、もう殺したら だ、だめだ!
アギ言った!ど、どんなやつでも お!親がいる
立てよ歩めよと ね!願った人がいる!
そ、そう言って、く、苦しんでたじゃないか!
い、今迄の事を く!悔やんでた!
だ!だ!だ!だ!だめだ!だ!だめだああああ!!」
アキヨリはまだ妄想の中にいる
自分の襟首を掴み激しく体を揺さぶってくるタキの喋り方がいつもと違うなと ぼんやりゲンの顔を見ていた
分かっている、分かっているのだ
タキはもういない
だがここにいる
アキヨリはゲンの手を強く握りその勇気に応えた
「俺は!
俺は何もかも失ったつもりで
世をすねくれ己の無力を呪うばかりだった
だが何にも失ってはいない!」
ゲンの腕を肩に担ぎ共に素早く立ち上がったアキヨリの指差す先にはノブハルの取り巻きの一人が構えた弓と矢があり
それは一瞬にして真っ黒い炭となりへし折れ
弓を引き絞っていた右手は自らの頬を打った
弓を握っていた左手は相当熱かったのだろう具足の腰から下を覆う部分の下散という所にしきりに擦り付けると焼け焦げた手甲の掌の部分がぼろっと落ちた
アキヨリは続け様に取り巻きの一人一人の顔を指差した
自分の顔を指差されると取り巻きはビクッと体を震わせ顔を引きつらせた
「去ね!!」
「ひっ!!」
一人短く悲鳴をあげ馬首を返すと残りの者もつられて手綱を引いた
「馬を置いてだ!!」
やめてくれとばかりにしきりに掌をアキヨリに突き出し六名が馬を降り一目散に逃げ出した
他の者は一様に馬を降りる事もなく者は振り返りもせず馬にしがみつくように必要以上に馬の腹を蹴って逃げて行った
その様子を表情も変えずノブハルを取り返しに来る者がいない事を見定めたアキヨリはゲンを見やりやっと表情を表した
「ゲンありがとう すまなかった」
ゲンがいつもの微笑みを見て安心するとアキヨリは直様皆の所に駆け寄った
そして膝と掌を地について頭を下げた
「すまん!全て俺の招いた事だ
リッカを義母上に連れて行かれた
そして俺の命を狙って大軍がすぐそこ迄来ている
皆の命も危ない
許してくれとは言わない!
恨んでくれていい!
俺と一緒に逃げてくれ!
どうか!どうか!皆の命だけは守らせてくれ!
この通り!この通りだ!」
何度も何度もアキヨリは地に頭を打ち付けた
「色男!もうおやめ!
誰もあんたを恨んじゃいないよ
あたしゃ何がなんだか分からず驚いてるけど
あんたが元に戻ってからは皆気持ち悪いくらい落ち着いてるよ
もしかしてあんたらこうなる事を知ってたんじゃないかい?」
イヨ姉様は皆の顔を確認するように見やって行った
皆俯いて何も応えなかったがタノスケは静かに頷きアキヨリの前に進み出て彼の肩を掴み体を起こそうと力を籠めた
アキヨリが顔を上げるとそこには三本の脇差しと一本の太刀
そして皆の笑顔があった
マイはリッカが隠していたアキヨリの当世具足を抱えていた
「ありがとう皆 でもなぜだ」
後ろからゲンの声が近付いてきた
「せ、先生が い、いなくなる前の日
み、皆を呼んで い、言った!
さ、侍の子が来る
さ、侍の子は国を救う為神様が遣わした子
お、大きな災いが来る事があるかもしれない そ、その時は侍の子を信じて皆で助けろと!」
アキヨリは瞬く間に具足を身につけ左右の腰に四本の刀を差し
そして立ち上がった




