二人のアキヨリ
「先ずは そうだなぁお前幾つになった?」
薄暗い六畳程の部屋に天井から吊るされたギヤマンの燭台の灯が揺れている
アキヨリの視点は座っているには低すぎ寝そべっているには高過ぎる
目の前には正座したおそらく侍であろうが職人の着る作務衣を着た男がこちらを真っ直ぐ見据えている
正座と言っても行儀の良いそれでは無い
即座に膝を立て腰の太刀を抜く事が出来る侍のそれである
その座り方が身についた所作であるのと死地をくぐり抜けた者だけが放つ独特の眼光が男が侍である事を物語っていた
歳の頃はアキヨリより少し上だろうか?
だがかなり高齢の老人にも見える
見知った顔である毎日見ているようで久しぶりのような顔である
ただ誰なのかは思い出せない
まず頭を支配するべきは「なぜ」という問いであるばずだ
「なぜ俺はこんな所にいる?!」
「いつのまに?」
「どうやって?」
「誰が?」
「目の前の御仁の仕業か?そしていったい誰なのか?」
だがアキヨリは当然のように答えた
「義父上 二十一になりました」
だが耳からは別の言葉が聞こえて来た
「十歳だよもうすぐ十一になる
忘れたの?じっちゃん」
「なぜ俺は義父上などと言った?」
「なぜ俺の言葉が出ない?」
「俺の代わりに喋ったのは何者だ?子供のようだが」
だが目の前の男は当然のように答えた
「二十一かぁ立派になったなぁ
いろいろあっただろうなぁ」
アキヨリの口は勝手に動いた
「何言ってんの?俺のどこが二十一なの?」
「お前に聞いているんじゃないよ
でもお前に聞いてるんだけどな」
「何言ってるかさっぱりわかんないよ
じっちゃんボケた?」
「なんつったらいいかなぁ
うーん
とりあえずお前は黙っとれ」
「はぁ?
俺にリッカを託すとか言ったり
二十一とか言ったり
しまいにゃ黙っとれってそりゃないよ
って本当は分かってんだけどね
、ね」
十歳のアキヨリが振り向き二十一歳のアキヨリを見上げた
アキヨリの視点は急に自らの座った高さになった
十年前リッカがアキヨリの屋敷を訪れたあの日のアキヨリの小屋で
大小のアキヨリが隣り合い侍の正座の形で座っている
「義父上面目次第も御座いません!
このアキヨリが至らぬばかりにリッカを守り通す事まかりなりませんでした!」
アキヨリは床に頭を打ち付けこすりつけた
あまりに勢いよく頭を床に打ち付けたせいでガラクタが幾つか飛び跳ねた
十歳のアキヨリも同じように頭を下げた
「なんと!リッカのお守りに儂の言葉を封じ込めた事は説明せんでも良さそうだなぁ
アキヨリよ気に病むなソヤカの力尋常ではない
だが策はある」
「その策をお与え下さい!
必ずリッカを救い出し義母上の心をときほぐしてみせまする!
このアキヨリの一命を賭して必ず!」
「そう思い詰めるな
この策には時間を要する
先ずはお前が生き延びねばならぬ
この死地を脱するのが先決だぁ
酷なようだが今はリッカの事は忘れ儂のかわいい子供達を守ってくれ
リッカの無事は儂が保証する
心を静め事にあたるのだぁ
彼奴らはお前の心を揺さぶってくるぞ
儂はまた機を見て現れる
決して取り乱すな よいな!」
「シジマ アキヨリだな!
ヒデカツ様の仇このサカキ ノブハルが取らせて頂く!」
若い男の声と十数頭程の馬の蹄の音でアキヨリは目を覚ました
目の前にはねんねこを咥えたアクヤの顔があった
「そうだ!俺にはやらなければならぬ事があった!」




