喪失
空に川が流れている
生きる力をくれた
一途に一心に十余年もの間自分を待っていてくれた
その存在に比べれば自分の命の重さなど羽の如くだと感じる最愛の存在が白い羽の川となって空を流れて行く
その川にまとわりつくようにもう一筋の川が合流して行く
その川は工房の大きく空いた壁の穴から立ち昇っていた
「ついてなかったねアキヨリ
わたしの羽が残っていたなんてね
天は想いの強い者に味方するものだよ
取り戻そうなんて思わないことだよ
お前には辿り着く事さえ無理なんだからね
あははあははあははあははあははあはは」
工房からの白い羽の川からはアキヨリへの嘲笑が残響していた
火炎そしてリヨウ
アキヨリに残された白い川に手の届く手段は二つ
だが白い川からはリッカとソヤカの気配が混ぜこぜになって感じられた
火炎を放てばリッカの命とて危うい
リヨウの名を呼ぼうとしたアキヨリの視界の隅を巨大な白い塊が落ちて行った
のたうちまわる白い塊を視界の中心に据えたアキヨリは喉から血しぶきが噴き出る思いで一言だけ吐き捨てた
「成す術なし!!」
アキヨリは白い塊を元の姿に戻す為駆け寄り
両の手で白い塊の構成物を穴を掘るように剥ぎ取っていった
だがその構成物はにかわで貼り付けたようにくっつき合い剥ぎ取るのは怪力を誇るアキヨリにも容易ではなかった
無心でその作業を繰り返していたアキヨリは五、六回むしり取ったところでギョッとなった
その白い塊は白い鳥の塊に見えた
アキヨリは鳩とたかをくくっていた
リッカを追う為飛び立ったリヨウをそうはさせじとソヤカの放った無数の鳩が纏わり付き地に伏せさせたのだと
だがその構成物は鴉であった
無数の白い鴉がリヨウに纏わり付きその自由を奪っていた
白い鴉はアキヨリに剥ぎ取られ放り捨てられると怨むような人のそれのような呻き声をあげ腐るように溶けていった
「ピイィィィィィィィィ!!」
やっと姿を現したリヨウは呼吸も妨げられていたのか深く水に潜っていたように息を深く吸い込み吐き出しついでに叫び声をあげ
自らもくちばしと爪で白い鴉を剥ぎ取った
リヨウが元の姿を取り戻すとそこには虚脱感と腐り水のような臭いだけがあった
空を二つに割いていた川はもう淡雪が如く初夏の青に溶けて跡形もなかった
「困った時どうしていいか分からない事があったら その御守りに聞くのだよ」
アキヨリはその声を聞いた事を意識出来ていたのかいなかったのか
跪き両の目はただ川のあった空を各々勝手に同調する事なく見詰めている
己の無力への怒り
運命への怒り
喪失感
それらで飽和状態になったアキヨリには到底頬を撫でる風のような声を意識する事など無理だったのだろう
だが導かれるように首にさげた白い玉を握り締めると白い玉は淡い光を放ち砕け握った手のひらの指の隙間に潜り込んだ
アキヨリは前のめりに倒れた




