アキヨリ様
「これぞ秘術中の秘術 火炎竜の術ぞ!」
「すごい!アキヨリ様!
わたしの のろしを見てこの一連の策を思い付いて下さったのですね!」
「あ、ああ、ご明察だリッカ!」
なぜかアキヨリの返事はぎこちない
「覚悟はよろしいか義母上!
とりゃああああああ!」
ゴワアアアアァァ!ドオオオン!
炎の竜は天井に空いた穴からずり落ち床にその身を打ち付けた
「くっ!これ程困難な術だとは!」
「あはは!付け焼刃のようだね
それはナガヨリ様の術
アキヨリお前如きにそう簡単に成せるものではないよ」
「なんの!なんの!なんの!
そりゃあぁぁ!」
ゴワァァァ!ドシャァァン!
アキヨリは必死の形相で竜を操った
しかし炎の竜は暴れ狂う様にのたうち回り机や壁を破壊するだけである
「あははあはは!
一つ忠告しておいてやるよアキヨリ
こんな竜の鱗一つ一つを形にしているから他が疎かになってるのさ
ナガヨリ様は大切なところそうでないところ
よくわきまえてそれは見事に操ったよ」
「くそっ!見かけだけに捉われる未熟さが仇となったか!
しかし諦めるものか!」
ゴバアァァン!バギャァァァン!
アキヨリの焦りが乗り移ったのか先程より輪をかけ炎の竜は気が狂ったように暴れ狂い
工房の壁を破壊して外に飛び出してはまた戻りを繰り返し
あらかた壁を破壊し尽くし最後に皆が愛したガラスと格子窓を粉々にしてしまった
「ああっ!俺はなんという事をしてしまったんだ!」
「未熟も未熟
なんて滑稽なんだい槍の術はいい線行ってたのにねぇ
あははあははあははあはは!」
アキヨリを嘲るソヤカを許せなくなりリッカはただ守られるだけの自分ではないとアキヨリの腕から抜け出そうとした
だが
「決して離すなよリッカ」
アキヨリは何時の間にかねんねこの結びを解きリッカにトウカを託した
「アキヨリ様?!」
「しぃぃ…義母上に悟られる
決して離すな、よいな!」
「はっはい!」
そのやりとりを隠すように炎の竜はソヤカとアキヨリの間でのたうち回っていた
「くそっ!当てられさえすれば義母上とて倒せるのに!」
「あははあはは!
よく言ったものだよ
出来るものならやってごらん
当てられたところでそんな見掛け倒し握り潰してやるよ!」
「ならば早速!!」
アキヨリが全身の毛が逆立つような気合いを発すると炎の竜の鱗も逆立ち
ソヤカ目掛け一直線に襲い掛かった
「騙したね!このペテンやろうぅぅ!!!」
ドワワワァァァァン!
ソヤカは避ける間も無く炎の竜の直撃を食らった
しかし炎の竜はソヤカの力に相殺されたのか凄まじい爆音と爆風に姿を変えた
「リヨウッッッ!!」
「ピビイィィィィィ!!」
リヨウは上空を旋回しアキヨリの合図を待っていた
そして急降下した
凄まじい速度を身に纏い地面すれすれで水平に急転し
満開の桃の木の間をすり抜け花弁を舞い散らせ
工房の破壊された壁の大穴から突入した
アキヨリが術により工房の窓やら壁やらを破壊したのはリヨウの突入の為だったのだ
「任せたぞ!リヨウ!」
アキヨリ達にぶつからんばかりの至近距離をリヨウはすり抜けた
その速度に少しでも合わせようとアキヨリは投げつけるように
それでも壊れ物を扱うように優しく最愛を二人リヨウに託した
「ぐぅ!」
リヨウの両足に掴まれ急激に速度の世界に放り込まれたリッカは小さく呻いた
だがトウカを包む両腕は少しも緩む事はなかった
リヨウは必死に耐えた
飛ぶ者にとって重量と空気抵抗の急激な変化は命取りだ
だがそんなくだらない理由で落ちる訳にはいかないのだ
守るという動機はこの世の理など乗り越える
そんな信念と仲間の姿がリヨウに力を与えた
時を同じくしアクヤも行動を開始していた
リッカとトウカを抱えたまま長い間飛ぶ事の出来ないリヨウから二人を受け取る為
そしてその速度を無駄にしない為
自らも速度を纏わんとリヨウが突入した工房の反対
ギアマンの窓の側に向かい駆け出し
リヨウが飛び出して来るだろう軌道に自らの軌道を合わせた
ギアマンの破片を舞い散らせ工房を脱したリヨウは
アクヤの後ろ姿に追いつき その背にリッカを乗せアクヤの尻を頭で押し自分の速度も託しやっと地に伏せる事を許された
爆風の中からソヤカの怒声が響き渡った
「最初からこれが狙いだったかぁぁぁ!!!!」
「左様!多くを殺められぬ我が術は全て見掛け倒し!
拙者の勝利は義母上を打ち倒す事では御座らん!
そしてまだ続きが御座る!」
アキヨリは燃え盛る槍の刃を手刀で叩き折り なんと口から飲み込んだ
「鉄火身中の術に御座る!
とくと味わえい!!」
アキヨリの体は赤く青く燃え上がる火の玉となり爆風に巻き上げられた塵芥舞い散る中のソヤカに
迷う事なく導かれるように
床がめり込むほど蹴り出した脚力により生み出された速度と熱をぶちまけた
「ぎいぃぃやあああああ!!」
アキヨリの肩と背中を脇腹に食らったソヤカは叫び声を上げ仰け反った
だがやられるばかりでは無いソヤカはその全てを停止させんが為
右手でアキヨリの頭を掴もうとした
だがアキヨリの姿は既にそこには無かった
「リヨウ!お前は皆を呼んで来い!
ここは俺が食い止める!」
既に工房の外に出ていたアキヨリは
起き上がりかけたリヨウを抱き上げリヨウの首の札から
アキヨリ
と
呼ぶ
と
出ろ
という札を三枚咥えさせ母屋へと放った
「アクヤ!すぐに行く!リッカとトウカを頼んだぞ!」
アキヨリは庭を駆け抜けるアクヤの後ろ姿に叫んだ
だが様子がおかしい
なんとアクヤは急停止し己の背に乗ったリッカをしきりに振り返っている
「ああ!あああ!!」
リッカは自分の作務衣の襟元に突き刺さったものを必死に取り除こうとしていた
それは白い羽だった
震える手はそれを中々掴めずにいたが左手で右手を掴みその震えを抑える事でやっと掴む事が出来た
だが白い羽を掴んだ右手はタンポポの綿毛の如く宙に舞った
白い羽となって
「リッカアアアアア!!」
アキヨリはリッカに駆け寄り
アキヨリに振り向き精一杯伸ばしたリッカの左手を掴もうとした
だがその左手も見る見る羽となり
アキヨリの手からの風に舞い散りその手に触れる事は無かった
「…!…!」
リッカは何か言葉を出そうとして口を動かしたが声にならない
なぜならもう羽と化していたのだ
息を吐き出す胸の肺腑まで
次の瞬間リッカの襟元からおびただしいしい白い羽が噴き出し
空高く昇って行った
リッカがいたところにはねんねこが激しく火花を出し宙に浮いていた
無論支えを失ったねんねこはアクヤの背に落ち更に滑り落ちた
アキヨリは地に落ちようとするトウカをかろうじて受け止めるのが精一杯だった
アキヨリは聞いた
確かに聞いた
リッカは声に出せなかったが確かにアキヨリの名を呼んでいた




