火の鳥
「大御祖父様それでは拙者は役立たずでは御座いませんか!」
アキヨリは理由も告げられず自分の長所、ただ一つの存在意義を奪われたような不安にとらわれ
ゲンユウサイに詰め寄った
「よく聞けアキヨリよ
お前の一番優れた能力は操炎の術ではない
それは状況を的確に判断し兵を導く戦術眼じゃ
それに元々な…うーむどこから話せばよいかのぅ
ならば大元の大元から話そうか
お前のその力は元来ここにおわすオオクニヌシが火の神より賜わりし力なのじゃ」
「はい!ゴクラクサイ様より聞き申しました
オオクニヌシはヤマトに打ち勝つ為優れた鉄を作る力を欲したと」
「そうじゃ
だがただでその様な力を手に入れられると思うか?」
「いいえ代償は大きかったかと」
アキマサもイエナガも同じ考えである
今まで考えたことも無かったが
一族に伝わる操炎の力
何の代償も無く手に入れられるようなものではない
アキヨリの身にこの先何らかの災いが及ぶのではないか二人の兄は不安にとらわれゲンユウサイの次の言葉を息を呑み待った
「そうじゃ大きな代償であった
オオクニヌシが火の神と交わした契約はその力で多くを殺めるな
つまり戦に使うなということじゃな」
「それでは拙者は契約を破ったことになります!
それにそんな条件は大きな代償とは言い申しません!」
「ああ、ああそうじゃな
しかしアキナガのやつはな火の神の目を欺く術を身に付けておったのじゃ」
ガダッ!
アキヨリは急に立ち上がり涙をこぼし始めた
「おかしいと思っていたのです…
ううっううっああ…」
「どうした?!アキヨリなぜ泣く?」
イエナガも立ち上がりアキヨリの肩に手を置きその顔を心配そうに覗き込んだ
一方アキマサはアキヨリの考えを読み取ったのか拳を握り締め何かに耐えているようだった
「あんなにお元気だった父上が急に病で亡くなられるなどおかしいと思っていたのです!
神の目など欺き続けられるものでは御座いません
きっと拙者の術が火の神の目にふれ父上は祟りにより亡くなったのではありませぬか!
父上を殺したのは拙者では御座いませんか!」
「違うぞ!断じて違うぞ!
アキナガの術はそんな安っぽいものではない!
操炎の力なくともシジマ家に伝わる操炎術より派生した数々の術を死に物狂いで身に付け
文字通り神業と呼べる域まで昇華させた男じゃ
己を磨く事を知らん神の目を欺く事など赤子の手をひねるより容易じゃ
それにアキヨリお前に術を使わせたのは儂らじゃ
万が一お前の言う通りだったとしてもお前には何の咎も無い
アキナガは病に倒れたのじゃ
よいな!」
「はい…分かり…申した」
アキヨリはイエナガに促され元のように座された
アキマサもイエナガもアキヨリの心中を思い
なぜ自分には操炎の力が与えられなかったのか
なぜ弟だけがこの様に苦しまなければならないのかと歯痒い思いだった
「話が横道に逸れたな
むろんオオクニヌシが神と交わした契約はそれだけでは無い
贄じゃ生贄じゃ
オオクニヌの力はその子孫に受け継がれるようになり
時折生まれる力を与えられた子を生贄に捧げるというのが大きな代償とよべる契約だったのじゃ
とりわけ火の神は女子を好んだそうじゃ」
イエナガとアキヨリは生贄という言葉によりただ視界を白一色とされていた
だが一人アキマサはゲンユウサイの目を真っ直ぐ見つめ問いを連ねた
「大御祖父様は話す順序が悪ろう御座います
拙者より二つ程問いが御座る
まず一つ
生贄と仰いましたがシジマ家歴代の操炎の勇者に生贄になった者など聞いた事が御座いません
火の神との契約ずっと反故とし続けておるので御座るか?
もう一つ
女子にも操炎の力を持つ者がおるので御座るか?
シジマ家の伝承の書はあらかた熟読いたしましたが
女人の操炎術者など一人もおりませんでした
我等の知らぬところで生まれ出で
知らぬところで生贄となっては御座るまいな!」
理不尽、犠牲を嫌うアキマサは自然と語尾に怒気をはらませた
「すまぬ、すまぬ
生贄などまだシジマ家とシラセ家がミナモト家から分かれる遠い昔の話じゃ
ヨシツネが地の底より火の神を呼び起こし火の山を次々と噴火させヘイ家一門を撃ち破った時
ヨリトモ公が火の神をその内の一つの火の山に封じ込めて以来生贄は必要とはなくなった
もう一つの問いじゃが女人の操炎術者もおる
その者達は御山の守人と呼ばれ今も火の神が封じ込められた山を守り続けておる
守人といえば火の神が封じ込められる以前は操炎術者は鉄を精製する多々良を守る者という意味で多々良の守人と呼ばれておった
ただ一つ男の術者と女の術者が違うのは
男はアキヨリお前の様に全てを燃え上がらせる動の力
女は全てを鎮め凍り付かせる静の力をそれぞれ持つという事じゃ
ああ、それとな力を持つ者は持たぬ一般の者と子を成すことは非常に稀じゃ
御山の守人は途絶えてはならんアキヨリ頑張るのじゃぞ」
ゲンユウサイはニヤリといやらしくアキヨリに笑って見せた
アキヨリは生贄になる心配が無くなったせいもあり羞恥心を赤い色で表した
イエナガもニヤニヤ笑っていた
だがただ一人アキマサは仏頂面を崩してはいない
「やはり大御祖父様の話の順序はおかしゅう御座る
火の神が封じ込められているなら戦で操炎術を使おうが何の問題は御座らぬのではないか
これではただアキヨリを脅しつけかわいそうな思いをさせただけの話で御座る!」
弟を傷つける者は何人だろうと許さぬ
アキマサは完全に怒れるまばたき魔人と化していた
「すまぬ、すまぬアキマサ」
「アキヨリに謝るのが筋で御座ろう!」
「兄上!拙者は平気で御座います
大御祖父様が意味も無く我等だけ呼び付ける訳は御座いません
拙者の力、戦で使ってはならぬ理由があるので御座います!」
「そうじゃ、そうじゃ本当にすまなかったアキヨリよ
歳を取ると頭の廻りが悪くなってかなわん
操炎の術を戦で使ってはならぬ理由
それは術により命を失った者の命を苗床として火の神は火の鳥となり転生するのじゃ
それは過去に一度だけあった
儂の父サネアキが今の大乱の元凶となった将軍家の後目争いを早々に決着させる為 術を使い敵陣を焼き払った
忘れもせん…
一面に転がった黒焦げの亡骸から四十畳はあろうかという巨大な火の鳥が現れ
我が陣営に襲い掛かって来たのじゃ」
「そんな話は初耳で御座る!」
シジマ家当主となった自分にそのような重大な事実が伏せらていた事にアキマサはまた怒りを覚えたが
あまりに現実離れした話に狼狽しその怒りを表すまでには至らなかった
「そんな巨大な火の鳥をどうやって倒したのですか!
シジマ家が今もあるのはどなたかが火の鳥を倒したので御座いますよね!」
アキヨリは目を輝かせ座ったままゲンユウサイに一歩詰め寄った
「アキヨリよ喜ばしい話ではないのだ
アキマサよこの話はシジマ家の汚点として封印されて来た影の歴史じゃ
火の鳥により我が陣営は壊滅寸前まで追いやられた
それでも怒りが鎮まらない火の鳥は我等の領地まで火の海にしようとした
それを救ったのはな…
それを救ったのは将軍家の後目争いに巻き込まれシジマ家と敵対し
儂の父サネアキが焼き払った
シラセ家の御曹子シラセ ナガヨリつまりゴクラクサイだったんじゃ」




