忘れるな それは鍵となる
アキヨリがリッカとソヤカの発した言葉を理解するのに要したのは齢十四の記憶であった
「おい!アキヨリ遅いぞ!
お前はいつも来いと言われた時刻に遅れる」
アキヨリが息を切らせ見上げるような大きな鳥居をくぐると
参道で彼を待っていたイエナガに怒鳴られた
鳥居には大前神社と銘が掲げてあったが
時を重ね過ぎたのと鳥居が高すぎるのでそれを読み取るのは困難である
「すまん兄者急にいろいろあってその…
大御祖父様と兄上は?」
「お待ちかねだ!
いろいろなどと言ってどうせ犬やら馬やらと遊んでいたのだろう!」
「いや、違うな」
参道の石燈籠の影からアキマサが現れ言った
アキマサは驚くイエナガとアキヨリの首に腕をまわし
二人の顔は見ず真っ正面を見ている
「申し訳ありません兄上遅くなりました!」
「あ!兄上!いつからそこに?」
アキマサは二人の様子など気にもとめない
「当ててやろうか?」
「な、何をです?」
「な、何をです?」
「先ずはアキヨリ!羽織の袖と口の周りがテカテカしておる
また道端の桃やら夢中に食ろうて遅れたな!」
「ひっ!ひい!ご明察で御座います!」
「次にイエナガ!お前も時間に遅れ
アクヤが繋がれていないのを見てアキヨリが来るのを待ちアキヨリを待っていたという名文を得ようとしたな!」
「ひっ!お見通しで御座いましたか!」
「実はな」
「なんです?兄上」
「なんで御座いましょう?兄上」
「俺も遅れてやって来てお前達を待っておったのだ!
あーはっはっはっはっ!」
ビュン!
三人のすぐ頭の上を何かが風を切り通り過ぎた
カッ!ビイィィィィン!
それは鳥居に突き刺さり細かく震え蝉の鳴くような音をだした
神社の本殿の方から放たれた矢であった
三兄弟が蒼白となり本殿を振り向くと賽銭箱に片足を乗せ弓を構えたゲンユウサイがいた
「クソガキども!早く本殿に入らんか!」
「は、はっ!ただいま!」
「はっ!申し訳御座いません!」
「はっ!はい!大御祖父様!」
昼間だと言うのに本殿の中は薄暗かった
それは明かり窓を二つ開けただけで後の戸や窓は全て閉めきられていたせいである
御神体のオオクニヌシを背に胡座をかいたゲンユウサイの垂れ下がるだけ垂れ下がった神妙な面持ちの前には
頭にタンコブを乗せた三兄弟がいつお説教が始まるかと息を飲んでいた
「この度アキマサが家督を継ぐにあたりお前達に聞かせておかねばならん事があり呼んだ次第じゃ」
「それなら先だって就任の儀の際にお言葉、御訓示を賜りましたが」
「此度は家長としての心構えでは無くアキヨリの生まれ持った力についてじゃ」
アキマサとイエナガはアキヨリの顔を覗き込み
アキヨリはぐっと唾を飲み込んだ
「まず本題から申し告げる
お前達の父アキナガが死んだ今
その力もう二度と戦で使ってはならん!」




