交渉決裂
「怪我は無いかどこか痛むかリッカ」
アキヨリの問いにリッカはただうつむき首を横に振った
「本当か?」
リッカはただうつむき首を縦に一度頷いた
するとアキヨリはもう何も聞かずソヤカに向い改めて闘気を全身から発した
それは鋭く尖った物で突かれた様な触覚をソヤカに与えた
「アキヨリわたしと戦うつもりかい?
見ての通りリッカは普通では無いのよ
あなたをずっと騙していたのよ
それでもリッカの為に戦えるの?
そんな姿の女とこれから先 供に生きて行けるの?」
先程までの憤怒の表情とは打って変わりソヤカは幼子に諭すように優しく語りかけた
だがそれが上っ面だけなのは時折痙攣する右目の下の筋肉が物語っている
ソヤカの発したその
「普通ではない」
という言葉を聞きリッカはびくりと体を震わせた
アキヨリはそれに応えるようにリッカを包む左腕に力を込め
ソヤカを睨み付け答えた
「わざわざ答えるのも面倒な問いで御座る!
息をしないと死ぬかと問われて「はい」と答えるようなものだ
当たり前の事をわざわざ問うては頂きたくござらん!
先程申し上げた通り大人しくお引き取り願えば戦う理由などあり申さん!」
「ならばそうしましょう
アキヨリあなたは大切な友人の息子
そしてわたしにとってもとてもかわいい存在
ただし条件があるわ」
「なんで御座ろうか」
「リッカとトウカをこちらに渡しなさい!」
「交渉決裂にて御座る!!」
アキヨリが赤く言葉を発するとその言葉に焼かれるようにソヤカの足元に倒れた
アキヨリの普段使っていた椅子が一瞬にして燃え上がりその炎は四本に分かれ
更にその四本は縒り合うようにねじれ合い渦巻き
指一本の太さに集約されソヤカに襲い掛かった
アキヨリの果断さにリッカは色を失った
「アキヨリ様!
戦ってはだめ!お母様に敵うはずない!
お母様!ご勘弁を!次は必ず女の子を産みます!
ですからアキヨリ様とトウカの命はお助け下さい!」
「おだまり!」
ソヤカは炎の螺旋を軽々と握り潰し憎々しげに続けた
「女の子の名前をつけてわたしを欺こうなんて
アキヨリ!あんたの差し金だね!
シジマの奴等はどいつもこいつもペテン師揃いだよ!
御山の守人は同じ相手とは生涯同性しか産めない事は何度も口を酸っぱくして言って聞かせたろうに!
リッカ!あんたの我儘で日の本を再び火の海にする訳には行かないんだよ!
それにトウカは多々良の守人だよ!」
ソヤカはねんねこの火花に弾かれた右手を突き出した
その手のひらには中指から手首にかけの抉るような火傷の筋ともう一つ小指全体が焼け爛れる火傷があった
「この小指の火傷はその子につけられたものだよ!
二代続いた多々良の守人がどれだけの厄災をもたらして来たかも知ってるだろう!
リッカ!あんたは再び多々良の守人が現れるまで眠りにつくんだよ!
何十年何百年待つか分からないんだ
子を成せる御山の守人はもうあんただけなんだよ!
次は女の子次は女の子と甘い期待に滅んで行った血筋と同じ過ちを犯すつもりかい!」
「嫌です!!アキヨリ様以外の男と子を成すなど死んだ方がましです!
わたしは人間です!
国を守る為の道具じゃない!」
「いいかいリッカ良くお聞き
私達御山の守人が皆良く似ているのと同様に
多々良の守人も皆良く似ているのよ
アキヨリもナガヨリ様に良く似ているわ
新しく出会う多々良の守人もきっとアキヨリにそっくりよ」
「ふざけないで!そんな人間はアキヨリ様じゃない!
こんなに優しくて強くて心根の美しい方は何万年待っても何千年待っても現れるものですか!
アキヨリ様はたった一人!」
「あんたこそふざけるんじゃないよリッカ!
あんた達は一年も一緒にいられたんだ我儘お言いじゃないよ!
わたしとナガヨリ様は…
わたしとナガヨリ様はああああ!
ほんの一時
ほんの一時だけしか…
そんなにアキヨリがいいならその命引き摺り出しておまえに食わせてやるよ!」
何かがソヤカよりアキヨリに向け迫って来た
見えない
聞こえない
匂いもない
だが確実に迫って来ている
見過ごした場合の結果も分かっていた
全てを停止される
アキヨリに流れる祖先達の戦闘の記憶が直感的に解決策を導き出した
シジマの兵に同じ手は二度とは通用しない
アキヨリは導かれるように
まだ燻り続ける燃え残りの椅子から熱を呼び込み槍に宿らせ
その何かの通り道であろうカ所にかざした
シュン!!
赤く熱せられた槍は一瞬にして鈍色に輝きを取り戻した
それをアキヨリはぼんやりと見つめていた
直感で迫る脅威に対応し
彼の理性はソヤカとリッカの言葉を知識と擦り合わせる作業にかかっていた
「多々良の守人?
それは俺達 操炎術者の古い呼名だ
御山の守人?
それは遠い昔ヨシツネが地の底より呼び出した火の神を封じ込めた山を守る冷の力を持つ一族
合点が行ったぞ!」
アキヨリは直感、理性の両者を槍に籠めた




