姿だけ形だけ
ピィピィ!ピイィィィ!
その笛の音は合図である
アキヨリの帰還を知らせ傭兵達への戦闘を促す合図である
おおよそリッカの屋敷の門の辺りから聞こえて来るがタニザワ ヤノスケの姿は見えない
「合図ですぞ!いかがなさいますか?!」
「何本だった?!」
「何がでございますか?」
「腰の巻き物だよ!」
「三本に見えました!」
「俺にもそう見えた
だったら何がどう間違ってもあいつが負ける筈はねえ
俺達はあいつが出て来たら逃がす算段に徹するんだ
容易じゃねぇぞ
相手は百や二百じゃねぇんだ
この山ぁ封鎖されてると思え!
決して逃げ道悟られんじゃねえぞ
俺はここであいつを待つ
てめえらは持ち場に散れ!」
傭兵達が姿を現す事は無かった
彼らの潜伏した
あの日アキヨリとヒデカツの対峙した雑木林に充満していた人の気配は静かに消えて行った
チッ!
舌打ちを残し門の辺りからも人の気配が消えた
屋敷を取り巻く思惑は姿を見せず泥水の如く静かに渦巻き
降り続く雪が鳴く虫の声も消してその静けさに拍車をかけた
その渦の中心には白い鳥の羽が舞っていた
工房の中は視界のきかぬ澱んだ水をたたえた白い羽の海と化していた
リッカはその海の中で名を呼ばれた
二者により同時に
「リッカァァァ!どこにおる!」
「リッカどうしたの?なにを泣いているの?」
二者の内一人の来訪には白い羽の出現で気付いていたが
最愛の人の気配には名を呼ばれるまで気付く事は無かった
彼等の雄叫びや蹄の音は鳥の羽に消されていたのだろうか
リッカは知っていたこの白い羽はじきに消えて無くなる
それはすなわち彼女にとって死より勝る絶望
「アキヨリ様わたしは大丈夫!
みんながお父様の部屋にいます早く行ってあげて下さい!」
何がなんでも今の姿を見られたくない
アキヨリに工房を去るよう促したが羽が無数に舞う異常事態に従う筈などないだろう
苦し紛れの行動だかリッカは一番近い自分の作業台の下に潜り込んだ
コツン ゴロロ
リッカの爪先に何かが当たって転がった
それは作業台の足に当たって転がるのをやめリッカの顔をうらめしそうに見ていた
白い羽の出現で見失っていたチョウジロウの白く凍った首だった
「ひいいいぃ!」
さっきまで殺してしまおうとしていた男の首が恐ろしかった
そのリッカの耳にくすぐるような感触
人が言葉を話すと息を意識して吐き出す時程ではないが僅かに息は吐き出される
リッカはその僅かな息を耳に感じた
「リッカよくお聞きなさい」
「おっ!お母様!」
「辛かったわね悲しかったでしょう?
でもねこんな薄汚い人間とよぶのもはばかられるような者でも殺してはだめ
アキヨリ殿の苦しみを見て来たでしょう?
あなたがその苦しみを背負ったらアキヨリ殿はもう耐えきれなくなってしまうわ」
「リッカ!どうした!返事いたせ!」
舞い散る羽に業を煮やしたアキヨリは燃やしてしまおうかと
念を集中し我が子をかばう為か無意識に左腕でトウカを包み込んだ
「うぎゃうぎゃあうぎゃあ」
アクヤの速度も怖かったであろう
アキヨリの雄叫びも耳にしたはずだ
にも関わらず半分眠ったように機嫌を損ねなかったトウカが突然泣き出した
「!!!!!!!!」
我が子の異変にその無事を確認する為
自らの懐に目をやったアキヨリは絶句した
そこにはリッカの顔があった
トウカとアキヨリの僅かな隙間にリッカの顔がねじ込まれた
だがアキヨリは瞬時に理解した
これはリッカではない!




