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六角の花   作者: フミ
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115/788

落雷

女が殺してやると言っている

自分の腕が床で砕け散っているのはこの女のせいなのか

チョウジロウは自分の腕からリッカの顔に視線を移した

白かった

雪のように白いリッカの肌が塩のように無機質に白くなっていた


生き人形という精巧に人の形を人の手により再現した物がある

だが寸分違わず色形を再現しても人間ではない

それを人間の目はそれを見分ける事が出来る

多くの場合そういった物に恐怖にも似た違和感を感じるのではないだろうか


その違和感がリッカから滲み出ていた

表情豊かな浄瑠璃人形より無表情なリッカの無表情は憤怒を表していた


「うわあああああ!

化け物!助けてくれ!すまなかった助けてくれ!」


「化け物?

わたしから見たらあんたら侍の方が化け物よ

助けてくれ?

わたしが助けてって言ったら助けてくれたの?

ふざけないであんたはもうやってしまったのよ

死んで当然の事を」


リッカが一歩進み出た

チョウジロウは背骨が凍りついたような寒気を感じ後退りしたが

足がもつれ尻もちをついた


今度は背骨が凍ってしまったかと残った左手でさすってみたが凍ってはいないようだ

だがガタガタ歯が音を立てるほどの寒気は収まるどころか強まる一方だ

それは恐怖から来るものだけではない

実際に急激に気温が下がっているのだ


「助けてくれぇ助けてくれぇ…」


チョウジロウはひざまずき頭を床に擦り付け

頭の上で拝むように残った左手と砕け散ってもう失った右腕を合わせた


「いい気味だわ

そうやって命乞いした人を殺めて来たのでしょうに

分かったでしょう?

あんた達が踏みにじって来た人達の気持ちが!

我が子を残して理不尽に命を奪われたわたしの家族の両親の気持ちが!

思い知れ!思い知れぇぇ!」


リッカが手を振り上げ目を見開いた

その瞳は鮮血のように赤く染まった

もはや彼女の面影などどこにもなかった


「ひいいいぃぃ!」


恐怖にチョウジロウが顔を強張らせると

バリッ!

凍った顔の皮膚が表情の変化について行けず裂けた

その時である


ズガァアアアアアアアン!!


耳をつんざく爆音が響き渡った



「なっ!なんだ?!

いきなり雪が降り始めたと思ったら今度は雷か!

一体どうなっているんだ!」


そろそろこのへっぴり腰どもを始末して

アキヨリの槍と太刀を奪おうかとしていた侍は

突然屋敷の庭の樹齢百年はあろうかという楠木に落ちた雷に驚愕し一瞬我を失った


積乱雲が立ち上り雨ではなく雪を降らせ雷を発生させていたのだ


ゲンは倒れタノスケは母屋の壁まで追い詰められていた

ゲンの胸には倒れる原因となったのだろう侍のワラジの跡がついていた

だが彼は雷などに気を取られはしなかった

近距離の落雷である命あるものであれば生命の危機を感じ

その事態を確認しようと視覚や聴覚 感覚の殆どを差し向けるだろう


だがゲンもタノスケも違っていた

ただ目の前の侍だけに全神経を注いでいた

戦いに望む心構えに天と地の差があるのだ


「ああ!うわあああああ!」


ゲンは跳ね起き侍の肩を突き刺し更に突進した

タノスケも続けとばかりに太刀を振り下ろした

どこを切ろうと言う訳では無い

ただ力の限り振り下ろした


「ぐあああぁ!

この虫けらどもが!」


侍はタノスケの太刀に胸から腹に斬り付けられた

だが浅かった

侍を戦闘不能にするまでには至らなかったのだ

力任せに振り下ろしたタノスケの太刀は地面に突き刺さりタノスケは全くの無防備となってしまった


そのタノスケの首めがけ侍の太刀が横一閃に放たれた


「だっ!だのすけ!!」


ゲンは槍を打ち捨てタノスケの前に飛び出した

生まれたばかりのタノスケの赤ん坊の顔が泣き声がゲンの脳裏を駆け巡った


「ぐああああああ!!」


叫び声を上げたのは侍であった

侍は両腕を関節とは逆に無理矢理広げられ背中で肘がつこうかという程であった


侍が苦し紛れに顔を上げると巨大なくちばしと二つの猛禽の目が怒りに燃えていた



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