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六角の花   作者: フミ
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本能

「うう!うううう!ぅぅう!」


胸を貫かれた侍は目を見開き只々呼吸の為の筋肉を収縮させ

体内の気体を全て吐き出した

収縮したのは呼吸の為の筋肉だけではなく

全身の筋肉であって声帯を操作する筋肉も収縮し

そこを体内の気体が通過する過程で只「ううう」という音となった


それが侍の断末魔であった


チョウジロウの太刀はなまくらでは無かったが

人体を貫くにはかなりの抵抗がある

豆腐に針を刺すわけでは無いのだ

背中から突き刺す力の何割かは前に押し出すよう作用した


その為リッカと侍の距離は歩数で二歩程あったが五寸足らずになり

二寸程しか侍の胸から突き出無かった切先が

結果としてリッカの喉元に突き付けられた


前に倒れそうになるのを反射的に足を前に出し踏ん張った侍だったが

全身を強張らせるように痙攣したあと突き刺されたチョウジロウの太刀に胸に空いた穴でぶら下がった

侍は何が起こったか理解する間も無く息絶えた


チョウジロウは太刀を持つ手に重みを感じると

引き抜くのも面倒とばかりに太刀を手放し

侍の横腹を蹴り横倒しに太刀の突き刺さった侍だった物を工房の床に叩きつけた


チョウジロウとリッカを隔ていた物が取り除かれた

チョウジロウの目にリッカの姿がありありと映し出された

工房に足を踏み入れた時 顔を見た

もっと近くで見たいと思った


さっきまで走っていたからであろう

白い肌が汗ばみ ほんのり紅をさしている

目は見開かれ恐怖を表している

髪は乱れその見開かれた片方の目を右の目を覆い隠していた


「ああ、その髪をどかして隠れた目を見たい

二つの目を見たい」


チョウジロウの呟きはほとんど声になっていない

声に出そうというつもりは無い

ただ唇だけが動いていた


「なんなのこの男

何で仲間を殺したの?!

何をブツブツ言ってるの?!

逃げなきゃ何とかして逃げなきゃ」


しかしリッカの足は動かない

とてつもなく重くなったようにも軽くなったようにも感じられ

動かない


チョウジロウは引き寄せられるように一歩踏み出し右手をリッカの右目を覆う髪に差し出した


リッカの視界を近付いてくるチョウジロウの手が侵食してきた

それはやがてリッカの視界すべてを支配しほとんどの光を遮った


「あああああああああ!!」


リッカは己を縛りつける何かを声として吐き出し縛を解き

右手を力の限り振り回しチョウジロウの差し出した手を振り払った


その行為は拒否以外のなにものでもない

一方チョウジロウの行動は好意から派生したものだ

チョウジロウは傷付きリッカを睨み付けた

リッカの作務衣は腕を振り回した事により襟首ははだけ白く赤く汗ばんだ肌が胸元まで露出していた



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