指図するな
女を追えと指図された男の名は
カイトウ チョウジロウ
ヒデカツ側近の中で唯一出身を武家としない
寒村の百姓の息子として生を受けた者だ
彼の心の片隅にはいつも劣等感がこびりついている
たった今しがたも所属している川中衆の中でも同格の者に指図され
表向きは従ったが心中は穏やかでは無い
「くそ!
どいつもこいつも俺を百姓の息子と馬鹿にしていいように使いやがって
あの男達が手にしていたのはアキヨリ殿の槍と太刀だ
戦場で何度も見たから間違いない
なんと見事な業物だろう
ちくしょう!
あいつうまい事やって自分の物にするつもりじゃないのか
いつも俺は損な役回りだ」
そんなチョウジロウのやっかみも
リッカを追い工房に辿り着く頃には心の片隅に追いやられた
チョウジロウは異変を感じていた
「おかしい、屋敷の周りに身を隠したのは二十二名の筈だ
笛の合図があったのに何故三名しか出て来ないんだ?
まさかもうアキヨリ殿はこの屋敷に戻っているのか
これは留守と見せかけたアキヨリ殿の策で姿を見せない奴らはもう殺されているんじゃないか
この仕事の後口を封じをされるんじゃないかと考えていたが
それどころじゃ無いぞ
どうする!」
正直チョウジロウは油断していた
家人を拘束して人質とするのは川中衆の仕事であった
家人達は陶芸家で戦闘とは無縁の者だと聞かされていた
安全と言える仕事である
アキヨリが戻って人質を取られ進退極まった所を傭兵達が仕留める
という手筈だった
危険な仕事は傭兵達が請け負う
自分の命の心配をするのは仕事を終えてからとたかをくくっていたのだ
「どうすりゃいいんだよ!
アキヨリ殿が出て来てからじゃ遅いんだぞ
今すぐ逃げ出すか?
でも俺の考え過ぎかもしれんぞ
せっかく侍になれたんだ
それを全部捨てるんだぞ
どうすりゃいいんだよ!」
答えの出ぬ内に工房の敷居を跨いでいた
「観念したようだな女
おう、チョウジロウいい所に来た
俺がこの女を押さえつけるから
お前は腕と足を縛れ」
また指図である
だがチョウジロウはもう従わなかった
女がいた
愚かな侍共と啖呵を切っていた
どんな女かと興味があった
顔を見た
目があった
チョウジロウはもう
どうすりゃいいんだよとは思わなかった
「チョウジロウなにをぼさっとしてる!
早くこっちに来い!」
「ああ…」
リッカに太刀の切先が突き付けられた
二人目の侍が工房に入って来たのを目にして
我を取り戻したリッカは再び受け入れ難い時事に縛りつけられた
その太刀は一人目の侍の胸を貫きリッカの喉元に突き付けられていたのだ




