猿芝居
素質は十二分にあった
ヒデカツはたいして大変な思いをせずとも
兄弟にも同年代の物達にも何をやっても負けなかった
戦でも負けらしい負けなど無かった
自分より勝る存在などある筈が無い
あったとしても認識しなければよい
それ故シジマ アキヨリと言う存在には奴は特別だと目をつぶって来た
だがその特別と真正面から向かい合わざるを得ない試練に崖っぷちまで追い詰められ
ヒデカツはめざましく成長したのだ
ヒデカツに足りなかったのは必死さだった
試練に打ち勝とうとする必死さだけが人を成長させるのだ
「このままでは俺について来てくれた この者達を犬死にさせてしまう
俺がなんとかせねばならんのだ!」
一旦覚悟を決めれは扉を開けアキヨリと対峙するのに勇気など必要とはしなかった
社から一町歩離れた鳥居の所にアクヤ跨ったアキヨリが見えた
鉄砲で仕留められるギリギリの距離だ
相手が相手であるこの距離では難なく回避されてしまうだろう
おびき寄せる必要があった
「おい、おいこれはご挨拶だな…」
なんと言って油断させようか
あらかじめ台詞も決め
扉の開け方から何から頭の中で繰り返した通り実行しようとしたその矢先
アキヨリはヒデカツの顔を一瞥しただけで馬首を返し
台詞も言い終わらない内に駆けて行ってしまった
アクヤの蹄の音が遠のいて行く
全て見透かされたのである
それにしても去って行くにしても何らかのやり取りがあって当然だろう
「おのれ!馬鹿にしやがって!」
怒りと猿芝居を見透かされた羞恥で
ヒデカツは真っ赤になり石畳の参道をアキヨリを追いかけて行った
間に合う筈はないアクヤに追い付ける筈は無いのだ
だが追いかけずにはいられなかった
鳥居を通り過ぎ曲がり角にある杉の巨木に差し掛かると眉間を何かに押され
走ってきた勢いそのままに
ヒデカツは肩まで地面に打ち付け派手に尻もちをついた
「ドーマン!」
呪文の様な声を耳してヒデカツが顔を上げると
人差し指を突き出したアキヨリがいた
アクヤだけ走らせ巨木に身を隠しヒデカツを逆におびき寄せたのだ
「な!何をした!ドーマンとは何だ!」
アキヨリは冷めた目つきで引き返して来たアクヤに跨り振り向きもせず駆けて行った
「やはりこうなったか
ヒデカツ!ああヒデカツ!
嘆くな嘆いている暇など無いのだ
奴が俺を討ち取ろうとするなら万全を期する筈だ
アクヤ!もっと速くだ!」
リッカ達に危険が迫っている
言葉にする事も不吉過ぎて出来なかったが
リッカ達が人質に取られようとしているのは明白だろう
アキヨリはこんな時初宮参りなどに来た己の不明を悔いた
「あー、あー」
「トウカやっと目を覚ましたか
なんと豪気な
そうか!父を励ましているのか」
「ごめん下さいませー!
ごめん下さいませー!
誰かー!誰かー!」
その頃リッカの屋敷の前に怪我をした旅人が倒れ助けを呼んでいた




