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飲み会での裏情報  (2)

 とうとう二学期が始まった。昨日の職員会議や学年会で例の問題が話に出た。多くの先生に対して真相が明らかとなって、私への疑いが少しだけ晴れたようである。


 校長や教頭もとりあえず一安心と言ったところであった。しかし、磯辺をどうにかしない限り、この問題は根本的に解決しない。それが学年会の話にも出たが、結局いい案は出なかった。


 このような話は飲むときの肴となっても、このような真面目な話にはなり得ないのだ。それは先日の3年部での飲み会のことを思い出せば明らかである。


 そんなことを考えているときに、社会科準備室に誰かが近付いてきた。嫌な予感がした。やがて、それは現実となった。ドンドンドンとドアを叩く音がして、


「福井先生、磯辺です。入ってもいいですか?」


と、さらりと言ってのけたのである。


 私は迷った。実は昨日の職員会議で「用のない生徒が旧校舎に入ることを禁ずる」と決まったからだ。そして、そのことは今日の始業式のときに教頭から全生徒に告げられた。


 迷った末に磯辺に「戻りなさい」とだけ言った。彼女はドア越しでどうしたらいいか分からずに立ち止まっている。私は続けた。


「今日、教頭先生からお話があったはずだよ。『旧校舎には用のあるとき以外、入ってはいけない』と。旧校舎は人があまりいないし、建物が古いからむやみに出入りしたら危ないんだよ」


 それは小さな子供をあやすような言い方だったかもしれない。少なくても中学3年生に対する物言いではなかった。でも、どういったら彼女が素直に引き返すのか、まったく分からなかった。彼女はまったくドアの前から動く気はないようだった。


「こら、磯辺、何をやっているのか? お前はもう社会科係ではないだろう? 用もなく旧校舎に入ってはいけないと教頭先生もおっしゃったはずだよ。これ以上、福井先生に迷惑をかけなさんな」


 田村先生の声だった。そして、足音がだんだん大きくなってくる。そのときだった。


「先生、私、苦しいです。どうしたらいいかわかりません」


 そう吐き捨てるように磯辺は言い残して、戻って行った。その途中で田村先生に捕まったのか、しばらくやりとりが続けていた。さすがは生徒指導部長だ。容赦なかった。


 5分ほどして、ようやく静かになった。そして、今度は静かな足取りで田村先生が準備室にやって来た。


「福井先生、ダメですよ。ダメなことはダメだと厳しく指導しないと。さて、そろそろ、教科部会の時間だから、私はこれで戻りますよ」


「田村先生、すみません。ありがとうございました」


「いいってことよ。困ったときはお互い様」


 そう言って、先生は足早に新校舎へ戻った。今から体育館へ向かうのだろう。体育教官室で体育教員の教科部会があるからだ。それからしばらくして、今度は社会科の教員がここにやってきた。


 準備室の隣が小さな倉庫兼会議室となっているので、社会科の教員の教科部会はいつもここで行う。私は社会科主任を任されているが、社会科の教員の中では一番下であった。


 教科主任は年齢的に30前後で任されることが多い。うちのような各学年4クラスの計12クラスの小規模校ならなおさらであった。


 何事もなかったかのように教科部会を始めたが、あのとき田村先生が来なかったらどうなっていたことか…。それを考えるとぞっとする。いつの間にか何度も磯辺の


「先生、私、くるしいんです。どうしたらいいのかわかりません」


と言う言葉を反芻していた。そして、心をチクチクと痛めつけた。

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