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入試結果

 あれから一五年が経ち、私は中学校で生徒の報告を待つ立場となった。もう、卒業式を終えて3年生の教室はがらんとしていて、さみしかった。


 一・二年生の教室から響くざわめきが、そのさみしさを一層引き立てた。三年部の先生たちは職員室などで事務作業を進めていた。各生徒の内申書やその他の書類を高校へ送る準備作業に追われていたのである。


 いつもなら社会科準備室で仕事をする私も、この日は職員室で仕事をしながら生徒が来るのを待った。朝九時から合格発表なので、早い生徒でも学校へ来るのは九時半過ぎとなる。九時半過ぎから、


「先生、合格しました」


「先生、ダメでした…」


などの声がちらほら聞かれるようになる。私の受け持ちの生徒もやって来た。十時過ぎた頃から職員室は騒がしくなり、用のすんだ生徒にはどんどん帰ってもらった。


 不合格の生徒はクラス担任にだけ伝えて、さっさと帰るのだが、合格の生徒はお世話になった先生全てに伝える。まあ、それが人情であるから、分からなくもないが…。でも、そうすると職員室が混乱するので、担任に伝えたら帰ってもらうことにしたのである。


 どうして、このようなことをするかと言うと、高校入学に必要な書類を中学校から送らないといけないので、生徒一人一人に確認を取らないといけないのだ。


 十一時頃には生徒の数もちらほらと来る程度になり、十二時頃には誰も来なくなる。まれに遠方の高校を受験した生徒や、不合格だったことを誰にも知られたくない生徒が昼過ぎにやって来る。


 事実、私のクラスにも一人不合格だったのが、十二時頃に来た。それから、クラス担任を持っている四人の先生で誰が来てないのか確認をしているときだった。磯辺が来た。しかも、かなり息を切らしながら…。


「三年三組の磯辺です。田村先生、いらっしゃいますか?」


 まだ、ゼェゼェ言っているが、それでもいつも通り決められた手順で職員室に入ってきた。田村先生は「どうぞ」と言って、自分の所へ来るように促した。すると、磯辺はうれしそうに田村先生の所へ近付いて行った。


「先生、やりましたよ。私、△△高校の美術コースに合格しました」


「そう、それはよかった。ところで何でこんなに遅くなったの? みんな十一時過ぎまでには来たよ」


「実は高校まで母に送ってもらったのですが、母も私も方向音痴で道に迷ってしまいました。車で三〇分あれば、行ける所なのに一時間半もかかってしまって…。しかも、帰りもまた道に迷ってしまいました。それでこんなに遅くなりました」


 田村先生は他の先生の顔を見た。何と言っていいのか分からずに困っているようだった。この時チャイムが鳴り、給食時間に入った。時間は十二時半を差していた。


 そのため、多くの先生が授業を終えて職員室に戻ってきた。その中には土橋もいた。彼はこっちへやって来た。


「おっ、磯部さんじゃないか。結果はどうでしたか?」


 土橋に呼ばれたので、磯辺は後ろを振り向いた。


「土橋先生、私、無事に合格しました。これも絵の指導をして下さった先生のおかげです。本当にありがとうございました」


「おいおい、何を言っているんだ。入試結果は絵だけじゃなくて、五教科の結果も反映されるんだよ。私なんかよりも、今ここに座っていらっしゃる先生たちにお礼を言うべきだよ」


 ここで磯辺は再び私たちの方を向いて、三年部の先生一人ずつにお礼を言って回った。それを見て、私はやっと肩の荷が下りたような気がした。


 今までいろいろあったが、磯辺は無事に志願校に合格し、私は下島地区教育事務所に出向して再スタートを切ることとなる。そうこれでいいのだ。磯辺はKと違って、迷い続けることはなかった。


 早いうちに、また前へ進むことができたからこそ、今日の合格へとつながったと思う。それと周りの大人たちが最悪の選択をさせないように、常に見守ってくたこともよかったに違いない。


 何より、一五年前の悪夢をくり返さなかったことが一番よかった。このことが私の心をとても軽くしてくれた。歴史をきちんと生かせば、過ちをくり返すことはないと確信した。

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