灰色の絵(2)
「今年の△△高校の美術コースのデッサンのテーマは『学校』か『尊敬する人』なんです。それで磯部さんに学校を描かせたところ、この絵を描いたわけです。この絵は素人目に見ても色使いが悪いことは明らかです」
「確かにそうだな…」
「なんで、色使いが悪いかと言うと、その色がそのまま、今の彼女の心情を表しているからです。なぜなのかは福井さんもすでに分かっているでしょう?」
土橋が少し責めるような口調で、ぶっきらぼうに言うではないか…。もう、止めてくれよ。俺が何をしたと言うのか…。
何かの本で「絵は絵描きの心を映す鏡である」と書いてあったのを読んだことがある。そうでなくても今までのいきさつを考えれば、多感な時期の磯辺がやり場のない何かを絵にぶつけたことぐらい、素人の私にも分かる。
「つまり、学校をモチーフにした絵でこんな色使いをした絵を描いた原因は私にあると、そう言いたいんだな」
「………」
「否定はしないよ。否定のしようがないから…。で、どうしたら磯辺の絵が元に戻るんだ? 私には分からなくても、土橋には分かっているんだろう? 君は美術のプロなんだから…」
分かり切ったことを強く言われたことに対して、少しムカッと来たので、私は皮肉を込めてやり返した。彼はまたしても一瞬黙り込んだが、すぐに次の言葉を発した。
「磯部さんにどんな絵を描きたいか聞いたところ、『福井先生』と答えました。この絵を誰に見てもらいたいか聞いたところ、やはり『福井先生』と答えました。私は担任にも見てもらおうと思ったところ、彼女が嫌がるので、何とか説得して村田先生に見せることを納得させました。もしかしたら、彼女、未だにふっきれていないのかもしれませんね」
ここが学校でなかったら、彼をぶん殴っていたかもしれない。お前に何がわかるのかと思った。私は教師と言うだけで、そこまで責任を背負わなければならないのかと、天を仰いだ。もし許されるなら、全てを投げ捨てて全てを忘れてしまいたい気分だった。
「じゃあ、磯辺のために絵のモデルでも、何でもなってやるよ。そうすればいいんだろう。来週の日曜なら大丈夫だけど…。もちろん、土橋も立ち会うんだよな?」
結局、私が磯辺のためにできることと言ったら、それぐらいしかない。彼女が何を思おうとも彼女の気持ちにだけは応えることはできない。それに応えることは2人の破滅を意味するから…。
「もちろんです。来週の日曜なら…午前中に美術部の活動があるので、そのときにお越し頂けますか?」
「ああ、いいよ。えっ、まさか…。たくさんの美術部員の前でモデルになれって言うのか?」
「一対一だとまたあらぬ噂を招きます。だから、美術部員のためにモデルになると言うスタンスがいいと思いますよ。それに彼女は引退したとは言え、美術部の一員なので他の部員と一緒でも何も問題ありません」
「そうか、分かった。じゃ、来週の日曜な。では、お疲れ!」
「お疲れ様でした。失礼します」
もう、なるようになれって感じだった。どうして、こんなことになったのか考えるのが面倒なぐらい疲れ切っていた。あと、二ヶ月半で全てが終わる。そうすれば、全てから解放される。何度、そう自分に言い聞かせたことか…。




