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灰色の絵(1)

 年が明けたら、あっと言う間に三学期が始まった。束の間の急速だったが、久々に旧友と会って気持ちだけでも学生時代に戻ることができた。


 奴らといろいろ馬鹿をやることで気分転換もできた。やはり、学生時代の仲間は最高である。


 まだ、どうなるか分からないけど、あと三ヶ月間はしっかり頑張ろうと思った。今、目の前にいる生徒たちが全員希望通りの進路を切り開いて欲しいと切に願うところである。


 三学期になると、生徒は高校受験の願書を書いたり、中学校三年間の総復習をしたりすることになる。生徒も忙しいが、教員はそれ以上に忙しい。


 そんなとき、磯辺から絵を見て欲しいと言われたので、放課後、美術室へ絵を見に行くことにした。なんで社会の先生が絵を見ないといけないか…とも思ったけど…。まあ、彼女の絵を見るといい気分転換になるし、たまにはいいか…と思い至ったので、彼女の後をついて行く。


 美術室には土橋がいたが、当然のように美術部員の指導をしている。正直、頭が下がる思いだった。同じ三年部で同じように忙しいはずなのに、何とも不思議なものである。


 やはり、クラス担任を持っているのと、そうでないのでは忙しさがこうも違うのだろうか? 一応、彼に軽く頭を下げて、美術室に入った。磯辺に誘われるまま、準備室に入ると灰色の学校の絵が置いてあった。これが彼女の新しい絵のようだ。


「先生、どうですか?」


 どうと言われても、私は絵に関してはまったくの素人である。そんなことは土橋に聞けばいいのに、どうして私に聞くのだろうか?


 素人にもわかることは、年が明ける前に見た絵は色使いが明るく、見ているこちらまで楽しくなるのであった。その上、全ての絵が今にも動き出しそうなほど生き生きとしていて、見ている全てのものに勇気を与えてくれるものであった。


 しかし、灰色の学校の絵は色使いが暗く、見ているこちらまで冷たい気持ちになりそうだった。こう言う時うまくは言えないけど、絵がうまければうまいほど当然逆の力が働く。


 今まで生き生きとしていたものが全て氷つき、見ている全てのものから元気や勇気を奪う。磯辺の絵がうまいからこそ、悪い力も大きく働くのである。


「どうと言われても、私は絵に関しては全くの素人だからね…。確かに絵はうまいけど、なんて言うのかな…。全体的に暗い感じがして、何か嫌な雰囲気が漂っているかな…。ごめんね…嘘をついても、磯野さんのためにならないと思って、あえて厳しいことを言いました」


 嘘をついても彼女のためにならないと思い、素人なりに正直な感想を述べた。すると、それを待っていたかのように土橋が入ってきた。


「やはり、福井先生もそう思いますよね。この絵に関しては誰が見ても楽しくなったり、元気が与えられたりしません。全てが逆に働く…。そんな絵です。磯辺、分かったかい。田村先生や福井先生がおっしゃったとおりだよ。こんな絵を描いても人の心には響かないんだよ」


 彼女はひたすら黙っていた。土橋は少し言い過ぎたのではないかと思った。しかし、これで磯辺が受験をしようとしている以上、妥協は禁物である。彼はプロとして当然のことをしているのだ。


 そして、後で分かったことであるが、土橋が私を呼んで来るように磯辺に言ったのである。そして、私に絵の評価をさせたのである。


「はい、わかりました。また、描き直します」


 彼女はそう言うと消えてしまった。思うに、そう言うのが精一杯だったのだろう。そして、そのまま帰ったようである。いつの間にか他の美術部員も帰って行った。

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