磯野あおいの絵(2)
五分ほどしてから、美術室のドアをドンドンとノックする音がした。その後、「田村です」と言うのと同時に土橋が「どうぞお入り下さい」と言ったので、田村先生が入ってきた。
「あら、福井先生、どうされたんですか? こんな所で」
「福井先生も磯部さんの絵をご覧になりたいと言うことでしたので、ここで待ってもらいました」
「あっ、なるほど」
当然のことながら、田村先生は私と一緒に絵を見ることになったことを知らない。なので、土橋がかわりに説明してくれた。田村先生がこちらを見てきたので、とりあえず一礼した。
「すみませんが、あと五分ほど待ってもらえますか? もう六時になりましたので、先に生徒を帰しますね。はい、では片付け始め!」
土橋の号令がかかると、それまで黙々と絵を描いていた生徒たちが一斉に動き出した。日々の指導が行き届いている証である。
そして、五分も経たぬうちに片付けが終わり、美術部の部長が全体に号令をかけて、終わりの挨拶をした。すると、クモの子が散るようにあっという間にみんな帰っていった。
「では、こちらの方へいらして下さい」
生徒がいなくなった後、ガラガラになった美術室で土橋は私たちを準備室へと誘った。私は田村先生の後をついて準備室へと入っていった。
準備室には事前に用意されたと思われる絵が十点ほど並べてあった。これは田村先生が事前に絵を見たいと言ったおかげであろう。そうでなければ、磯野あおいの絵を準備室に十点も並べないだろう。
並べてある絵をみると、大きな絵もあれば、小さな絵もある。しかし、絵の大きさは違えども、全ての絵が今にも動き出しそうなほど、生き生きとしていて、見ている者全てに勇気や力を与えてくれそうであった。
こんなものを見せつけられれば、どんな素人であっても磯辺に才能があることを認めざるを得ないだろう。
「磯辺の絵がこれほどの物だったとは…。私、彼女の担任をしていながら、今日までそのことを全く知りませんでした。これなら、△△高校の美術コースへ行きたいと言い出すのも、まんざらでもないかもしれない」
田村先生がため息を漏らすかのように絵の感想を述べた。これだけの言葉を出す必要もないが、あえて美術教師である土橋にその確認をしたかったのだ。それが担任の仕事だと言わんばかりに…。




