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第4章-第5社 観光地・嵐山

 渡月橋に来ると、大堰川沿いの並木道では桜が満開になっていた。この並木道一帯には北桜神社から移植された万年桜があり、四月下旬でもこうして花が咲き乱れているのだ。


 快晴の中、風にさらされて桜の花弁が舞い、渡月橋の下を流れる大堰川へと落ちていく。橋の上に視線を移せば、桜のシーズンが影響しているのか、大勢の人が行きかっていた。


「おぉ、ここが渡月橋か~」

「流石、観光地。人が多いな」


 砂利道を歩いていた薫と樹は、目の光景に目を見張る。地元民はもちろんのこと、親子連れや、友人同士、外国人など老若男女国政問わずたくさんの観光客がいた。


 渡月橋周辺の景色を納めようとカメラのシャッターを切る音が響く中、秋葉は人の密度とそれによる熱気に当てられて顔を歪める。


「こら店ん中入って情報整理した方がええか」

 

 熾蓮の言う通り、こうも人が多いととても落ち着いて話せそうにない。二十五度と春にしては暑い気温で、雲一つない快晴とくれば立っているだけで体力を消耗しそうだ。

 

 比較的静かで涼めそうな店が近くにないか思い浮かべてみる。観光地ということでお土産屋やちょっとした飲食店は多いが、この分だとどこも人で溢れかえっていることだろう。そう思案しているうちに、一つ条件に当てはまる店を思い出した。


「だったら市松って和菓子屋さんはどう? ちょうど寒天ゼリーの季節だし、涼みながらゆっくり話できると思うよ」

「今日暑いしちょうどいいね。そこにしよう」


 秋葉の提案に薫は乗り気なようで、快く頷いた。


「熾蓮に樹、織部先生もそこでいいですか?」


 秋葉が訊くと、熾蓮と樹も同意する。一方で、織部は手元の時計を一瞥してから秋葉を見た。


「俺は学園の方に定時連絡せなあかんし、四人で行ってき」

「分かりました。では、また後ほど」


 先生たちはあくまで引率の身であり、定期的に任務が順調に進んでいるか報告する義務があるのだそう。それならば仕方ないと橋とは逆の方向に歩いていく織部を見送り、秋葉たちは渡月橋を渡り始める。


 歩道を歩きながら橋の下をじっと眺める。霊眼を発動させて、祟気が漂っていないか確認するが、特に異常はない。


 霊眼を解除して前を向くと、修学旅行生だろうかパンフレットを手にした女子二人が横を通り過ぎていく。


「あ、修学旅行生」

「修学旅行か。俺は前に話した通り京都だけど、他の三人は中学の修学旅行どこ行ったんだ?」

 

 秋葉の呟きを耳にした樹が後ろから声をかけてくる。


「わたしの時は東京だったなぁ。めちゃくちゃ都会でびっくりした覚えがあるよ」


 懐かしむような表情を浮かべながら薫が答える。


「おぉ、えぇな」

「東京か~。そういや、行ったことないな~」


 なんせ神社の務めで忙しく修学旅行などの特殊な催し以外で、地元から出たことが無いので東京はもちろん、大阪にも行ったことが無いのだ。


 それもエルの手伝いのおかげで少しは緩和されてきたので、これからは色んなところに足を運びたいものである。


「そういう熾蓮たちは?」

「俺と秋葉は九州に行ったで」

「そういやそうだったね。長崎のちゃんぽん美味しかったよ~」


 太い麺とシャキッとした野菜、自家製の鶏ガラスープで構成された名物のちゃんぽんは格別で、野菜の旨味が麵と絡んでもう絶品だった。また食べたいなと思っていると、十三参りに来ていたのか水色の着物姿の女の子とその母親が目に入る。


 確か十三参りをした後、渡月橋を渡る際には絶対に後ろを振り返ってはならないという言い伝えがあったはずだ。

 

 自分も十三参り終わりにエルと一緒に渡ったが、人の姿をしたエルの美貌に周囲の人が目を光らせており、周囲の視線が痛すぎて早く渡り切ってしまおうと後ろを振り向く余裕すらなかった覚えがある。

 

 当時の様子を思い出して苦笑していると、風が橋を渡っている秋葉たちを襲った。辺りに遮蔽物がないおかげで、強い風が吹きつけてくる。風のキツさに秋葉は目を瞑った。少しして風が止み、目を開ける。


「えっ……?」


 先ほどまで傍を歩いていた女の子と母親が消えていた。目を閉じている間に先を歩いていったのかと思い、霊眼で視力強化してみるが、前にそれらしき人影は見当たらない。


「秋葉? どうかした?」

「いや、なんでもない」


 薫に声をかけられ、首を横に振る。


(やっぱり気のせいなのかな……)


 思考に耽っていると、熾蓮が口を開いた。


「そういや、樹は?」

「……へっ?」


 ぐるっと周囲を見回してみるが、樹の姿が見えない。と、いつの間にか樹が向かってくる大勢の人混みに揉まれ、だいぶ後ろの方で立ち往生していた。


「あちゃー……またか」

「またってどういうことや?」


 額へ手を当てる薫に熾蓮が尋ねる。

「不憫なのか何なのか時々こうなるんだよね……」

「そらご苦労なことやな……」


 薫の話に熾蓮が乾いた笑いを溢しているのを見ていた秋葉は、後ろの方にいる樹へと目を向ける。未だ人混みから抜け切れていないようで、あれは当分戻って来られそうにないなと感じていると、不意に薄い透明の膜のようなものが視えた。


(あれってもしかして……)


 祓力で視力を強化しようと一度目を閉じるも、開いた後には跡形もなく無くなっていた。違和感を覚えつつ、ひとまず橋を渡り切って樹が合流するのを待つことにした。

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