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第4章-第2社 十三参り

「おーい、そろそろやで」

「ん゛ー……」


 隣に座っていた熾蓮に肩を叩かれ、秋葉は目を覚ます。どうやら電車に揺られているうちに、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。


 試験稽古と昨日の試験の疲れが溜まっていたのだろう。熾蓮の方に身体を傾けていたことに気づき、慌てて姿勢を正す。


「ごめんね、重かったでしょ」

「そない気にせんでええよ。昨日は色々あったししゃーないて」

「あー、そういやそうだった……」


 今日の任務でミスを犯さないようにしなければ。気を引き締めていると、嵐山駅に到着したようだ。みんな揃って下車し、改札を潜り抜けて外に出る。


 電車に乗っていたせいか、太陽の光が眩しく、秋葉は目を細めた。空には雲一つない快晴が広がっており、絶好の観光日和いや任務日和だ。


「おぉ~、ここが嵐山か~」

「修学旅行以来か。懐かしいな」


 薫と樹が周囲をぐるっと見渡しながら話す。駅の周辺にはちらほら観光客の姿が見え、右奥の方には渡月橋(とげつきょう)への案内板があった。


「三週間ぶりの地元だ~」

「ほんま久々やな」


 秋葉と熾蓮は久しぶりに帰って来たこともあってほっこりとした表情を浮かべる。大神学園(おおみわがくえん)に入学して以来、連日試験の稽古続きでまともに帰れていなかったため、この光景も久しぶりだ。


「ほな、依頼書にあった千鳥ヶ淵(ちどりがふち)に行こか」

「はーい」


 織部が言うと、みんな揃って間延びした返事をする。まだお昼時ということもあってか、気が抜けているが任務をこなさないと退学になる。


(退学絶対阻止!)


 そう心に決めた秋葉は千鳥ヶ淵(ちどりがふち)に近い、左の住宅街に続く道を歩き出す。


 渡月橋への看板が立っていた右側の道よりもこちらの方が人通りは少ないので、スムーズに移動していく。北桜神社に続く道が見え、ふと狼姿のマスコットが思い浮かぶ。


(そういや、あいつちゃんとやってるのかな……)


 ちなみに今回もエルは試験の時と同様、手出しが禁止されているので、今は神社の方でお留守番だ。任務ついでに神社の様子を見に行けたら良いんだけどな。そう思いながら進んでいると、前の方で歩いていた薫が声を上げた。


「ねぇ、なんか着物姿の人多くない?」

「本当だな」


 樹も気づいたようだ。確かに先ほどから着物を着た中学生ぐらいの子どもとその保護者らしき人が周りを歩いている。


「お祭りでもあるのか?」

「んー、この時期はなかったはずだけど……」


 樹の問いに秋葉は眉をひそめながら応じる。ここら辺にある神社は北桜神社ぐらいで、まずこの時期に祭事はやらない。他に何かあったかと頭を捻らせながら歩く。


「あ、もしかしてこれとちゃう?」


 熾蓮が道の脇にあった白い大きな看板を指差した。そこには十三参(じゅうさんまい)りと大きな文字で書かれている。


「お、十三参(じゅうさんまい)りじゃん。懐かしい」

「俺らはもう三年前になるんか」

「そんなん言うたら俺なんかもう十年は前やで」


 秋葉と熾蓮がそう口にする中、織部はボヤくように言った。十三参(じゅうさんまい)りというのは、満十三歳になった子供たちが神社やお寺にお参りする通過儀礼のことで、京都であればこの通りの先にある法輪寺(ほうりんじ)が有名だ。


「まだ時間あるし、寄ってく?」

「そうだな。どんなところか見てみたいし、情報収集も兼ねて行ってみるか」


 薫の呟きに樹が応える。


「せっかくやから住職さんにも挨拶し行こか」


 織部も賛成のようで、揃ってこの先にある法輪寺(ほうりんじ)へと向かう。寺の三門を潜り、境内に続く長い階段を上ると、十三参りに参加する子供とその親で溢れかえっていた。


 華やかな着物やスーツ姿の人が多くいる中、寺の僧侶が参拝者へ列に並ぶよう呼び掛けている。水色の着物姿の娘とその母親が笑顔で本堂へ入っていくを目にしていると、中年の男性住職が秋葉たちに気づいたのか、こっちにやってきた。


「お、秋葉ちゃん。久しぶり」

「お久しぶりです山木(やまぎ)さん。お元気そうで何より」


 秋葉は軽く頭を下げて挨拶する。法輪寺(ほうりんじ)の住職である山木(やまぎ)とは、互いの神社や寺が近いこともあってか昔からお世話になっているのだ。


 特に祖母を亡くしてからは手が足りない時にはよくお寺の人に手伝ってもらっている。


「今日は何しに?」

「あー、えっと……」


 山木(やまぎ)に訊かれ、返答に迷う秋葉。多分、任務で来たなんて言ったら、きっと首を傾げられるだろう。どう言えば良いか迷っていたら、傍にいた織部が前に出る。


「ちょっと任務で来とりましてね。どうも担任の織部言います」

「法輪寺の住職しとる山木です。任務とはそらご苦労なことで。今は月に二、三回程度にはなりましたけど、私も若い頃はよう祓てましたわ」


(祓ってるってことは山木さんも代報者なのっ⁉)


 内心、驚いていると、秋葉の様子に気づいた樹から呆れ気味に、代報者は神職だけではなく僧侶もなれるのだと説明される。


 授業で先生が言っていたらしいのだが、如何せん記憶にないので多分創作に夢中で聞き漏らしていたか寝ていたかのどちらかだろう。


「あ、せや。最近変わったこととかありませんでした?」


 秋葉がもっと話を聞いておこうと思う中、熾蓮が山木に向かって尋ねる。山木は少し考える素振りを見せた後、口を開いた。


「変わったこというたら、毎年この時期になると、よううちの寺にやってくる娘さんがいはりましてな。ようけ羨ましそうに十三参りにくる子らを見てるんで、何とかしてやりたいと思てましてね。けど、今年は来てはらへんからどうかしたんやろかとちょっと心配で……」


 山木は眉を下げながら言った。話を聞く限り、その娘には参ることのできない何かしらの事情があるのだろう。それに毎年来てるのに今年はまだ来てないというのは心配になるし、気になるというものだ。


「まぁ、気になること言うたらそんぐらいですわ。あんま力になれんようで申し訳ないです」

「いえいえ、ありがとうございます」


 山木の言葉に秋葉は首を横に振る。と、十三参りの開始を告げる僧侶の声が聞こえて来た。


「そしたら、私は祈願(きがん)の準備がありますさかいこれで」

「ありがとうございました」


 秋葉たちがお辞儀をすると、山木は本堂の方へ歩いていった。列に並んでいた人たちが続々と本堂へと入っていくのを目にし、秋葉は自分のときもこんな感じだったことを思い出す。


 あのときは祖母が亡くなったばかりで、人型になった保護者代わりのエルと参ったのだ。


「さて、俺たちもそろそろ行くか」

「そうだね。早めに終わらせちゃおう」


 物思いに耽けていると、樹と薫が言う。再び階段を降り、山門を潜って少し歩いたところで、渡月橋が見えた。その下には大堰川と呼ばれる大きな川が流れている。


 千鳥ヶ淵は川沿いを進んでいった先にあるので、秋葉たちは渡月橋を渡らずに横の細い小道を歩くのだった。

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