第4章-第1社 初任務
四月二十七日。初任務当日となった秋葉たちは昼休みを終え、班ごとへと別れた。
肆班となった秋葉は同じ班員の熾蓮、薫、樹のいる元へ向かい、四人は机を囲うようにして椅子へ座った。
別の班になった悠が羨ましそうに視線を送ってくるのにいたたまれなさを感じる。
(ドンマイ、悠……)
とは言え、悠は詞貴と同じ弐班。このクラスのみんなとはこの三週間弱、一緒に過ごしてきたのもあってそれなりに仲もいい。加えて、彼女のポジティブさと社交性の良さならば、すぐに溶け込めることだろう。
「これで全員やな。今回、俺が肆班の引率することになったし、よろしゅう」
「よろしくお願いします」
織部の言葉に秋葉たち四人は返事をする。そうして織部から今回の任務概要の書かれた資料を受け取る。
表紙には『一年生肆班任務概要』とタイトルがあった。どうやらここに今回の依頼内容が書かれているらしい。
「ところで、白澪は?」
樹が織部先生に尋ねた。秋葉、熾蓮、薫の三人はつられて教室内を見回すが、確かに白澪の姿が見当たらない。どこにいったのだろうと思っていると、織部が話し出す。
「今回、白澪とB組の香月は救護要員としてなんかあった時のために、学園で待機してもらうことになっとる」
白澪と香月はそれぞれ治癒の祓式を持っている。二人が学園で待機してくれるとあればかなり心強いし、何かあっても大丈夫だろう。
みんな納得したところで、それぞれ資料に目を通し始める。秋葉も資料の表紙をめくって中身を確認していく。
事前の情報によると、初回任務で祓う祟魔の階級は、秋葉たち巫級代報者が対処できる拙級、荒級、準烈級、烈級までだそう。
肆班の場合、移動時間を省いた任務開始時刻は十五時から。任務先は――。
「――嵯峨嵐山っ⁉」
「なんや、俺らの地元やん」
任務先の文字を見た秋葉と熾蓮は真っ先に反応する。京都市内のどこかだろうとは思っていたが、まさか地元にだろうとはと驚く一方で、嵯峨嵐山に烈級相当の祟魔などいただろうかと頭を捻る。
「嵐山かぁ。だったら任務ついでに観光したいね」
「まずは任務優先だ」
「分かってるよ」
樹が注意すると、薫は面倒くさそうに返す。
「ほな、前振りはこんぐらいにして、班長から決めてこか」
織部の話を聞いた秋葉は視線を下ろして考える。
(班長か……。まぁ、まず私ではないよね)
人を纏め上げるなど到底自分にできるわけがない。そう思い、真っ先に自分を除外したところで、残りの三人のうち誰が班長に向いているか思案する。と、同じく考え込んでいた樹が顔を上げた。
「俺は中学の修学旅行の時に一回行ったぐらいで、そこまで嵐山には詳しくないからな」
「わたしも奈良県民だから、ここはやっぱり地の利のある秋葉か熾蓮じゃない?」
樹に続いて、薫が口にした。まぁ普通に考えたらそうなるだろうなと思いつつ、どう決めようかと熾蓮と顔を見合わせる。
「やったらここは公平にじゃんけんにしよか」
じゃんけんと言われ、一瞬ヒヤッとする。秋葉はじゃんけんがこれでもかというほど弱い。
中学の頃、授業が始まっても一向に先生がやってこないので、誰が呼びに行くかクラスの生徒全員とじゃんけんしたことがある。秋葉はもちろん全敗し、職員室まで先生を呼びに行く羽目になったのだ。
「だったらじゃんけんで勝った方が班長ってことで」
絶対に負けるのであれば、勝った人が班長と言うことにすれば、秋葉はほぼ確実にその任から逃れられる。
「最初はグー、じゃんけん――」
薫の掛け声に合わせて、互いに利き手を出してじゃんけんする。何度かあいこを挟んだ後、秋葉はグーを、一方の熾蓮はチョキを出した。
「あ、あれ?」
「お、負けた」
まさかの結果に秋葉が目を見開いて戸惑うのに対し、熾蓮は自分の手を見て呟く。
(いや、なんで私っ⁉)
じゃんけん最弱の自分が勝ってしまったことに驚きを隠せない。いつもは絶対負けるというのに、どうしてこういうときだけ勝ってしまうのだろう。自分の運のなさに泣きたくなってくる。
「えぇ……絶対班長とか向いてないんだけど……」
秋葉はそう言いつつ、机に頭を乗せて項垂れる。
「大丈夫やって、なんかあったら手貸すさかい」
「そうだよ。だから気楽にいこう」
「引率の織部先生もいることだしな」
そう励まされ、みんなが優しいのか鬼畜なのか分からなくなってきた。だが、そうは言っても今更変えることもできないので、秋葉は諦めて了承することに。
それぞれ自分の資料の班長の欄に秋葉の名前を記入していく。
「班長決まったところで、次は依頼の確認やな」
「依頼主は思金神……。確か、学園長の秩父神社の御祭神で知恵の神様でしたよね?」
聞いたことのある名前に秋葉は、記憶を辿りながら答える。
「そうや。今回みたいに神社省から出される依頼は全部その神さんを通しとるんよ」
「あ、そうなんですね」
神社省とは全国の神社を管理する省庁のことだ。大抵の場合、天界からの依頼はそこを通して代報者の元にやってくる。
思金神が一括で神社省から発行される依頼を管理しているとなったら、休んでいる暇などないのかもしれない。神様であっても人と同じように業務に追われているのを想像し、天界にいるであろう思金神を憐れむ。
「資料によると、四月上旬から嵯峨嵐山で行方不明者が続出してるみたいだね」
「あぁ。それと同時期に千鳥ヶ淵付近で髪の長い祟魔が目撃されとるようやから、そいつが原因ちゃうかって天界は睨んどるようやな」
薫と熾蓮は依頼内容に目を通しながら話す。髪の長い祟魔と聞いて一瞬、某ホラー映画に出てくる幽霊が頭の中をよぎる。が、流石にそんなことはないだろう。
依頼に出てきた千鳥ヶ淵というのは、嵐山の渡月橋の下を流れる大堰川の中でも一番深いとされる場所だ。
秋葉自身、行ったことはないが辺りは木に囲まれて鬱蒼としているため、あまり人が近づくような場所ではない。祟魔は人気のないところを好むと代報者課程の授業で習ったので、恐らくそこに潜んでいると見て良いだろう。
「となると、これ以上行方不明者の数が増えて凶暴になる前に、行方不明者の捜索及び原因と見られる千鳥ヶ淵に潜む髪の長い祟魔を祓う。これが今回の任務における目標ってところか」
「そうだね。階級は見たところ烈だから私たちでも対処できるし」
その髪の長い祟魔が肆班の任務における烈級祟魔となる。
巫級代報者試験の時に祓った蜘蛛型祟魔で準烈級、襲撃してきた青犬と赤犬で烈級だ。
そうなれば、大体、青犬と赤犬の二体と同等の強さとなる。
ちなみに報酬はそのときの任務達成度に応じて支払われる。退学回避はもちろんだが、今回でどれだけ稼げるかによって、今後の任務を受ける頻度も変わってくるだろう。
絶賛、資金難に陥っている北桜神社の宮司としては、何としてでも成功させたいところだ。
「依頼内容の確認も終わったし、さっそく行く準備しよか」
「はい!」
織部に声をかけられ、秋葉たちは勢いよく頷いた。試験稽古の影響で、かれこれ三週間近く帰っていない。久々の地元に胸を躍らせつつ、秋葉は教室を後にするのだった。




