第3章-第23社 試験結果
演習場内の談話室へと通された秋葉、熾蓮、悠は織部と豊田にビル内で起きたことを話していた。一通り耳にした豊田はメモを取り終えると顔を上げる。
「君たちを含めたA組の生徒と織部の話でおおよそ事態の全容は把握できた。しかし、結界に付与された線から歪みが現れるなど今までにないことだ。学園の三重結界にも線が施されている可能性があるとなると、急ぎ対応しなければならない」
「それならもう大丈夫。ボクが見つけて消しておいたからね」
豊田の話にいつの間にか現れていたエルが口にする。豊田と向かい合うようにして椅子に座っていた秋葉は、エルへ視線を向けた。
「あ、エル。来てたんだ」
「まぁね~」
エルは秋葉へ緩い口調で返した後、みんなの方へ向き直った。
「それにしても、試験中に襲撃とは飛んだ災難だったね」
「ホンマやで。せやけど、百体以上の祟魔がどこからともなく出没してきたとなったら手の打ちようがあらへんな……」
エルの言葉に応じた織部は頭を悩ませる。話を聞いていた秋葉は試験前稽古で百体討伐を何度もこなしていて良かったなと感じる反面、またこのようなことが起こったら溜まったものではないなと唸る。
「それに関しては当分ないと思うよ。歪みの元となった線は学園内から完全に消え去ったし、あれはいくら上級祟魔であっても生み出せないからね」
「確かエルと言ったか。どういうことか説明してもらえるかい?」
「うーん、そうだな。強いて言うなら、この世の産物ではない、からかな」
豊田の問いかけにエルは言葉を選ぶようにして言った。
この世の物ではないとすると、あの世――つまり天界あるいは祟界の物ということになるのだろうか。
「もうちょい詳しく」
同じく思考を巡らせていた織部がエルに向かって手を合わせて頼み込む。
「気になる気持ちは分かるけど、生憎とこれ以上は言えないね」
「何やねん。使えんやっちゃな……」
エルに拒否され、織部は腕を組みながら悪態を吐く。そんな織部に、肝心なときに役に立たないし、いないんだよね……と秋葉も内心で同意する。
「ひとまずの脅威は去ったんだ。用も済んだし、ボクはここで失礼するよ」
エルはそう言うと、室内から姿を消した。エルを見届けた豊田は徐に話し出す。
「取り敢えず、明日の任務は続行かな」
「そうやな。任務中は極力教員がついて回るけど、お前らもいつ狙われるか分からんから気いつけるんやで」
「はい」
織部の忠告に秋葉たちは硬い表情を浮かべながら返事をした。
◇◆◇◆
全員分の事情聴取が終わり、秋葉たちは試験結果を聞くために織部の元へと集まった。
「今回の巫級代報者試験、イレギュラーな事態はあったけど、みんなが正確に対処して祟魔を討伐し、見事生還にまで至った」
織部はそこまで言って言葉を切った。一方、A組の生徒たちはみんな緊張した面持ちで織部を見つめた。
(これで落ちたら退学。それはだけ絶対に嫌だ……!)
秋葉が祈るようにして両手を組み、硬く目を瞑っていると、織部が口を開いた。
「よって全員を合格とし、本日付けで巫級代報者としての活動資格を与えることとする」
「おっしゃあああああ!」
織部がそう発した瞬間、周囲から歓声が上がる。秋葉はホッとした顔で、胸に溜まっていたものを全て吐き出すかのように深く息をついた。
傍に座っていた熾蓮と悠も安堵の表情を浮かべており、二人とハイタッチする。
『朱華もここまで付き合ってくれてありがとうね』
『ま、オレとしても強いやつと戦えなくなるのはごめんだからな。謝礼は鶴屋の百楽二十個入りで頼むぜ』
『また高いし量も多いな……。分かったよ』
『サンキュー』
朱華の要望に小さく溜息を吐いていると、前で生徒たちの様子を眺めていた織部が後ろの机に置いてあった箱を手にした。
「さて、無事に巫級代報者試験に合格したお前らには、巫級代報者の証としてこれを授ける」
織部はそう言って蓋を開け、中身を見せた。上等な箱の中には緋色と松葉色の紐が四葉状に組まれ、垂れた部分が金の輪で留められた組紐があった。
「これって、織部先生もつけてるやつですよね?」
「そうや」
真っ先に悠が問えば、織部は首を縦に振って頷いた。
「正級代報者の場合は桜色と紫色に金輪やな。階級ごとに色はちゃうけど、代報者は漏れなく全員が着けとる。むしろこれが無かったら幾ら試験合格してても、代報者として見なされへんから、絶対失くさんようにな」
織部から釘を刺され、秋葉たちは絶対落とさないようにしようと強く頷いた。そうして組紐の入った箱を受け取った秋葉は、さっそく中身を取り出して組紐をベルト部分に通して着ける。
(これで私もついに代報者かぁ……)
ぶら下がった組紐を見て、思わず口元が綻ぶ。
「ちなみに巫級代報者の緋色と松葉色に金輪から始まって最終的には特級代報者の証となる白に金輪の組紐になる」
「白に金輪の組紐って確か、学園長が身に着けてた気が……」
織部の説明にふと学園長室でのことが想起され、秋葉は口にする。
「そうやで。あの人、優しそうな面しとるけど歴とした特級やさかいな」
「えぇっ⁉」
織部が言うと、秋葉は目を丸くして動揺する。
「あれ? 秋葉知らなかったの?」
「うん。今、初めて知った……」
悠に訊かれ、秋葉は狼狽えながら呟いた。確かに初めて会ったときから気品と威厳に溢れた人だと思っていたが、まさかの特級だとは思いもせず、衝撃を受ける。
文字通り凄い人物と入学早々、会話していたことに開いた口が塞がらないでいる中、織部はA組の生徒たちへ視線を向ける。
「みんな試験やら事情聴取やらでお疲れのとこ悪いけど、明日には初任務が待っとる。それに向けてしっかり休むように。以上、解散!」
織部がそう告げると、秋葉たちは立ち上がって演習場を出ようと歩き出すのだった。




