第3章-第20社 強襲
場所は変わり、ビルの五階。秋葉は飛んできた糸を刀で叩き斬り、上にいる蜘蛛型祟魔に向かって花弁の斬撃を飛ばす。下から天井にいる蜘蛛に向かって攻撃を仕掛けていくが、背中の表面が硬く、大したダメージは入っていなかった。
祟核は腹の部分にあるため、二人は蜘蛛を引きずり降ろして直接叩くことに。糸が悠の腕に掠って出血するが、彼女はお構いなしに足に向かって苦無を投げ続ける。秋葉も斬撃を飛ばして援護し、八本の足を斬り落としたところで、巨大な蜘蛛が床に落ちる。
耳をつんざくような甲高い悲鳴が上がる中、悠は無数のツタで蜘蛛を拘束し、腹部に向かって数本の苦無を投擲し命中させる。続けて複数の茨で祟魔を突き上げて逃げられないように固定し、秋葉を見た。
「今だよ! 秋葉!」
悠の合図で秋葉は地面を蹴って跳躍した。蜘蛛が糸を発射してくるが、瞬く間にすべて斬り伏せて霊眼を起動させ、真下にいる祟魔の祟核を捉える。
「獲った……!」
重力に従って落下する中、秋葉は桜の花弁を纏わせた刀身で祟核を貫く。直後、祟核から光が漏れ、祟魔が黒い霧となって消滅し、試験終了のブザーが鳴った。
「ふぅ……何とか終わった」
「やったね!」
着地した秋葉は納刀し、悠とハイタッチする。そして試験が終わったことで閉じられていた扉が開く。
次の瞬間、隣のビルで待っていたはずの二人の男子生徒が押し入ると同時に、秋葉に向けて無数のナイフを放った。
「秋葉、後ろ!」
「なっ⁉」
悠に言われて振り向いた時にはもう遅く、すぐ目の前まで迫っていた。その刹那、ビルの窓が破壊され、放射された炎によってナイフが吹き飛ばされて地面に落ちる。
「ギリギリ間に合ったようやな……」
割れた窓から侵入した熾蓮が秋葉と悠の前に立ち塞がるようにして転がり込んで来た。
「熾蓮、なんでここに⁉」
目を丸くした秋葉が問うと、熾蓮が刀を手にして立ち上がる。
「待機室に向かう途中、敷地内に張られた結界に歪みができとるのを見つけてな。怪しい思うて視てみたら歪みに微かに祟痕があった」
そこまで口にした熾蓮は二人の男子生徒へ目を向けた。
「つまり、そいつらは試験用に配置された生徒でも仮想祟魔でもない。人の皮被った本物の祟魔や」
祟痕は祟魔が放つ祟気の痕のことで祟魔がいたことを意味する。結界にできた歪みにその祟痕があったということは恐らくそこから祟魔がビル内へ侵入したのだろう。
「バレてしまってはこの器も用済みだな」
そう呟いた瞬間、二人の男子生徒の肉体が破られ、中から赤と青の半犬半人の祟魔が這い出て来た。本物の祟魔を前にして、秋葉は改めて祟魔に命を狙われていることを自覚して身を固くする。
二メートル近くある二体の祟魔はそれぞれ大剣と槍を手に持つと、秋葉へ顔を向けた。
「すべては我らの悲願たる等級昇格のため。悪いがお前の命頂戴する!」
槍を構えた青犬の祟魔が秋葉に突撃する。氷を纏わせた槍が振りかざされ、秋葉は抜刀して受け止める。
「ぐっ……!」
あまりの力の強さに押されそうになるが、秋葉は脚に祓力を回して踏ん張って弾き返し、地面を蹴って桜の花弁を纏わせた刀を振った。だが、祟魔が槍を振り回し、斬撃を相殺されてしまう。
「せいやあああ!」
秋葉の傍で悠が手にしたツタを引くと、拘束した赤犬が壁へ叩きつけられた。
怯んだ隙に飛び掛かった熾蓮が炎を宿した刀を振り下ろすも、身体を発火させてツタを焼いた赤犬が大剣を手に回転し、周囲にいた悠と熾蓮が吹き飛ばされた。
祟気を用いた異能力・禍式に圧倒される秋葉たち。
『念話も繋がらないし、敷地内からも出られないとなると……』
『どうやら俺たちだけで祓うしかなさそうやな』
『そうだね』
秋葉の念話に受け身を取って事なきを得た熾蓮と悠が返す。
先ほどから織部に連絡を取るために念話を飛ばすも一向に繋がらず、熾蓮が式神を飛ばすが外に出られないことから、秋葉が結界を解いた後に新たに敵が敷地全体に内縛と認識阻害の結界を構築したのだろう。
その証拠に結界に覆われた影響で空が薄紫色に変化していた。
「強いっ……!」
応援を呼べない以上は自分たちでやるしかないと悠が青犬へ葉を纏わせた苦無を投げるが、身体から強力な祟気が放たれ、呆気なく地面へ落ちた。
「現世に蔓延る弱小祟魔とは違って、我らは祟界に住まう者だからな」
「舐めてもらっては困る……!」
それぞれ武器に炎と氷を付与した赤犬と青犬が秋葉たちに向かって邁進した。咄嗟に避けて三人とも直撃を免れるものの、赤犬の大剣が地面へ突き刺さり、周囲の床が割れて崩れる。
「ちょっ! 嘘だろっ……⁉」
足場が崩落して四階へと落下した秋葉は、瓦礫から身を守ろうと紅葉で全身を覆って着地する。
「秋葉っ!」
「小娘よ、仲間の心配もほどほどになっ!」
上にいた悠が秋葉の元へ向かおうとするが、青犬の攻撃によって遮られる。と、天井に空いた穴から降りてきた赤犬が秋葉に向けて大剣で突きを入れた。
「ッ……!」
秋葉が祓力で強度を底上げした刀でいなせば、軌道のそれた大剣が廊下の壁へと突き刺さった。
(ここじゃ碌に戦えないな……)
そう判断した秋葉は開けたところへ向かうべく廊下を走るのだった。




