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天界の代報者~神に仕えし者たちの怪奇譚~  作者: 桜月零歌
第3章 巫級代報者試験編
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第3章-第18社 巫級代報者試験

 四月二十六日、試験当日。模擬演習ルームAのとあるビルへ集合した一年A組の生徒たちは、織部から試験に際する説明を受けていた。


「制限時間は一組十五分。模擬演習ルーム内のビルに潜む祟魔十体をペアで協力して祓ったら合格や。試験中は何が起こるか分からんからな。周りにはよう注意しつつ、考えて動けよ」


 織部の話を聞いた秋葉たちはペア決めのためにくじを引く。秋葉と同じ番号を引いた人はどうやら悠のようだった。


「よろしくね悠」

「うん! 絶対合格しよ!」


 明るい笑顔を見せる悠に、ガチガチに緊張していた秋葉の表情が和らぐ。秋葉たちの番は薫・樹ペアと熾蓮・白澪ペアの次となる三番目だった。思いのほか早いことに驚きつつ、自分たちの番が来るのを待つ。


 と、二番目の熾蓮と白澪の番が終わったのか、織部から屋上に上がるよう念話で呼び出された。屋上へ向かった秋葉と悠は全身に祓力を纏わせた状態でスタート位置に着き、織部に準備が整ったことを報告する。


『では始めっ!』


 織部の念話と同時に、模擬演習ルーム全体にブザーが鳴った。秋葉が朱華を身に宿す傍ら、悠は先に屋上の柵を越えて向かいの建物へ飛び移る。霊眼を起動させた秋葉もそれに続く形で跳躍し、薄く祓力を飛ばしながら祟魔のいる場所を探し出す。


 試験開始から一分が経過。建物の上を転々としていた秋葉は百メートル先のビルから祟気が漏れ出ているのが見え、少し離れたところで並走していた悠に向かって念話を飛ばす。


『悠、あそこのビル』

『こっちも視えてるよ』


 秋葉と悠は揃って気配のする二棟の五階建てのビルへと向かった。瓦屋根を蹴り、配管を経由して近くのビルまで接近する。


『秋葉、結界よろしく!』

『はいよ』


 悠が先に標的のいるビルの屋上へ飛ぶ中、秋葉は印を組み始める。浄化作用と内縛(ないばく)、認識阻害の四つの効果を付与してパンッと両手を叩いた。


 直後、祓力の波がビルに向かって放たれ、二棟のビルが隣接する敷地を覆うように透明な結界が生成される。結界を貼り終えた秋葉も屋上へ飛び、悠の元まで向かう。だが、中へ続く扉には鍵がかかっていた。


「屋上からの侵入は不可能、となると……」


 悠が顎に手を当てて考え込む。秋葉は目を閉じ、先ほど張った結界を通してどこか入れる場所がないか探る。と、秋葉が瞼を開いてこう言った。


「お、五階と三階の窓が開いてるな」

「じゃあ二手に分かれて入るとしますか」


 一通り祓ったら一階で落ち合うことにして、秋葉と悠はそれぞれ五階と三階のビル内へと侵入する。


 どうやらここはオフィスビルのようで、床に敷かれた青いカーペットの上に着地した秋葉は目を閉じて神経を研ぎ澄まし、祟魔の場所を探る。五階全体に祟魔の気配は二つ。秋葉は廊下を進んで左奥の部屋へ走る。


「っらぁ!」


 扉を蹴破った秋葉は突入と同時に抜刀し、刀身へ桜の花弁を纏わせて中に潜んでいた荒級の人型祟魔へと斬りかかる。


 だが、接近した秋葉に気づいたのか、初撃を躱されてしまった。秋葉は手のひらから数枚の花弁を出現させ、祟魔の空いた懐へ掌底(しょうてい)突(つ)きを繰り出す。次の瞬間、刃のように鋭い花弁を受けた祟魔が吹き飛ばされ、オフィスの机に激突。


「じゃあな」


 行動不能となった祟魔に向けて秋葉は刀を振り降ろした。祟魔が黒い霧となって消えるのを横目に、秋葉は部屋を出て二体目の祟魔のいるところへ走る。廊下を少し進めば、同じ人型祟魔が佇んでいた。


 祟魔が鋭い爪を立てて襲いかかるも、廊下の壁を蹴って攻撃を避けた秋葉は、真上から桜の花弁を纏わせた刀で祟魔を祟核(すいかく)ごと両断する。祟核(すいかく)を貫かれた祟魔は成すすべなく黒い霧となって消滅した。

 

 そうして四階にいた二体の荒級祟魔も祓い終わり、秋葉は悠へ念話を飛ばす。どうやら悠の方も三階と二階の祟魔を祓い切ったようで一旦、合流することに。秋葉が跳躍しながら一気に階段を降りて一階に着くと、悠が待っていた。


「秋葉、そっちはどうだった?」

「こっちは四体だ」

「あたしも同じく」

 

 秋葉も四体祓ったので、これで合計八体が消滅したことになる。


「ならあれで最後ってわけか」

「そうだね。さっさとやっちゃお」


 秋葉と悠は突き当たりの扉の前にいる二体の大柄な祟魔を捉える。視たところ強さは準烈級(じゅんれっきゅう)と荒級(こうきゅう)の間だ。残り時間もそう多くないので、秋葉と悠は早々に試験をクリアするべく、同時に駆け出す。


『あたしが右行くから、秋葉は左お願い』

『分かった』


 こちらの存在に気づいた祟魔たちは手に刀を出現させ、構えた。うち一体に向けて悠が苦無を投げるも、刀で弾いた祟魔は地面を蹴って突進。悠と祟魔が交戦状態に入るその横で、跳躍した秋葉も祟魔へ斬りかかるが刀で防がれる。


 しかし、秋葉は上から押し切って相手の刀を弾くと床へ着地し、祟魔に向かって無数の斬撃を飛ばす。刀で相殺されるが、祟魔の肩に一撃入り、そこから血が流れた。

 

 少し離れたところで悠が茨で祟魔を突き上げ、祓力を纏わせた苦無で祟核(すいかく)を貫いた。秋葉も怯んだ祟魔にバツを描くように斬撃を入れ、その中心に刀身を突き刺す。


 二体の祟魔が呻き声を漏らしながら消滅したのを確認した秋葉と悠は武器を納める。すると、近くから今までよりも強烈な祟気(すいき)の気配を感じた。


「今の……」

「多分、隣接してるビルの方からだね。十体倒したけど、まだいるってことは……」

「試されてるのかもしれねぇな。さっさと片付けるぞ」


 同意した秋葉が上に向かおうと歩き出せば、悠に手を掴まれた。


「ちょっと待って秋葉。あそこにいるのって……」

「……うちの生徒だな」


 制止する悠の視線を辿ってみると、普通科の生徒らしき男子生徒が二人いた。


「おーい、そこの君たち~! こんなところでどうしたの?」

「あー、ちょっと迷子になってしまいまして……」


 悠が声をかけると、うち一人の男子生徒が困ったように頭を掻いた。


(こんなところで迷子って一体どういうことだ……)


 突如現れた男子生徒二人を不審に思っていると、試験中は何が起こるか分からないという織部の言葉が蘇り、秋葉は模擬演習ルームの操作盤では祟魔だけでなくNPCも喚び出せることを思い出す。


「そうか。生憎と今ここは危ねぇから、二人ともこの先の部屋でじっとしといてくれ」


 秋葉の指示に頷いた二人の男子生徒は部屋の中へと入っていった。秋葉は祟魔が入って来ないよう閉めた扉に入縛と防御結界を張り、悠と共に祟魔の気配のする隣のビルへと移動する。

 

 隣接するビルへと入った秋葉と悠が漏れ出る祟気(すいき)を辿って廊下を進んでいると、大きな二枚扉の前に着いた。顔を見合わせて頷いた二人が警戒しつつ、中に入った途端、後ろの扉が閉じた。


 秋葉と悠は互いに武器を手に辺りを見回す。しかし、祟魔の姿は疎か四方を窓ガラスで覆われた空間には遮蔽物一つ見当たらない。確かに気配はするが、一体どこにいるのだろうか。そう思っていると、上から視線を感じた。


 ふと上を見上げてみれば、大きな蜘蛛型祟魔が天井に張り付いており、こちらを凝視していた。祟気の濃さからして等級は恐らく準烈級(じゅんれっきゅう)だ。


「噓でしょ……」

「っ……⁉」


 悠が目を見開くその隣で、祟魔と目が合った秋葉の全身がピシッと固まる。直後、秋葉の脳裏に入学前に複数の蜘蛛型祟魔から追いかけられた時のことが蘇り、顔がこれ以上ないほど強張る。同時に刀を持つ手も震え、カチカチという金属音が空間に響いた。


 大の蜘蛛嫌いの秋葉からすれば、ただでさえ普通の蜘蛛でも無理だというのに、目の前にいるそいつはクリスマスイブで遭遇したやつより大きいのだ。そんなのと真っ向から対峙するなど無理にも程がある。


「秋葉! どうする⁉」


 秋葉の異常を察した悠が声を張り上げて叫んだ。


『おい、どうすんだ。ここで引き下がるのか?』


(どうするって言ったって――)


 悠に続いて朱華にも発破をかけられ、唇を噛み締めていた秋葉はガバッと顔を上げる。


「――んなもん、祓うしかねぇだろ!」


 覚悟を決め、刀を握り直した秋葉が言い放つ。


「よし来たっ!」

『いいねぇ。それでこそオレの創造主だ』


 悠と朱華が互いにそう言った刹那、蜘蛛型祟魔の口から糸が発射され、まっすぐ秋葉に向かってきた。瞬時に跳んで躱せば、放たれた糸がコンクリートの床へと突き刺さる。


「何としてでも避けろ! 直撃したら間違いなく致命傷だ!」

「了解っ!」

 

 続けて糸が発射され、二人はその合間を掻い潜って回避するのだった。

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