第3章-第17社 百体討伐
巫級代報者試験前日。秋葉たちは日曜となる休日まで稽古に明け暮れていた。
絶賛、模擬演習ルームにて一年A組とB組のメンバーを交えての百体討伐中だ。最後に薫、樹、白澪の三人が祟魔を同時撃破し、ブザーが鳴った。
「Aチーム、記録更新!」
「おぉ~!」
出席番号一番だからということで演習を審判役を務めていた詞貴が言い放つと、参加していた者たちから歓声が上がる。
「みんな張りきっとるな~」
「これも初音が桁を間違えてくれたおかげだね」
「もういいでしょそれは」
Aチームの様子を非戦闘区域の高層ビルにある全面ガラス張りの展望室から眺めていた熾蓮と秋葉が緩い口調で話せば、初音は顔を赤らめる。
本人は恥ずかしそうにしているが、実際のところ初音のミスがなければ百体討伐などという無謀な演習稽古は生まれなかったわけで、こうして生徒みんなが着実に力をつけていくこともなかっただろう。
「あ、そうそう。初音に訊きたいことがあるんだった」
「何かしら?」
ふとそう口にした秋葉へ、初音は視線を向ける。
「昨日、熾蓮と悠の三人で対人戦やったんだけど、熾蓮の祓式で花弁が燃えちゃってさ。桜の花弁や紅葉の葉でも炎にも対応できるようにしたいんだけど、どうすればいいか分かる?」
「あ、それあたしも知りたい!」
いつの間に来ていたのか秋葉の疑問に悠が賛同する。秋葉と同じく対人戦をしていた彼女も見事、熾蓮に葉やツタを燃やされてしまっていた。
「構築した花弁や葉っぱ、草木を更に祓力で覆うことによって燃えづらくなるわ。でも、格上の相手にはまず通用しないからそこは注意することね」
流石に祓式が効かないのは困るということで聞いてみたが、対処法は案外単純だった。祓力で花弁や葉を更に覆うぐらいなら自分でもできるだろう。
秋葉が内心、そう踏んでいると、詞貴に代わって操作盤で環境設定をし終えた伊予から交代するよう声がかかる。
「それじゃあわたしたちも行くわよ」
初音の言葉に頷いた秋葉たちは、配置につこうと展望室に設置された外用扉から飛び降りた。
◇◆◇◆
最終稽古を終えてみんなが寮に戻る中、秋葉、熾蓮、悠、初音の四人はまだ模擬演習ルームに残っていた。
「これで試験前の居残り稽古は終わりだけど、たった二週間で祓式をここまで扱えるようになったのは凄いわ」
「やったー! でも、ここまでできたのは初音の教え方が上手かったからだよ」
初音に褒められた秋葉ははしゃぎながら話す。
「そうかしら?」
「うん! 誰かさんたちと違ってね」
秋葉は横にいた熾蓮と悠へ視線を向ける。
「悪かったな」
「だってあぁ言うしかなかったんだもん」
熾蓮と悠は不満そうなしけた顔をして言った。だが、熾蓮たちの説明が擬音ばかりで曖昧だったのも今なら分かる。
何故なら、朱華が話していたように祓式操作は感覚でこなすものだからだ。恐らく朱華がいなければ秋葉は桜と紅葉操作をまともに扱えていなかっただろう。試験と任務が終わったらお礼も兼ねて甘味でも奢ってやろうと思っていると、初音が徐に切り出した。
「わたし、こんな性格だから今までろくに友達とかいなかったんだけど、この二週間あなたたちと過ごせて楽しかったわ」
「私も初音と出会えて、友達になれて良かったよ。これからもよろしくね」
「え、えぇ」
秋葉が笑顔で手を差し伸べると、初音は少し動揺しながらも手を取って握手する。
「最初はとんでもないやつが来よった思たけど、悪い奴やないってのは分かったし。ま、これからもよろしゅう」
「よろしく初音! 暇なときはいつでもあたしらん家に遊びに来ていいからね!」
「熾蓮に至ってはホント一言余計だけどまぁいいわ。二人ともよろしくね」
笑みを浮かべた初音はそれぞれ熾蓮と悠と握手を交わした。
「けど、これで落ちたら承知しないわよ」
「勿論。そこは意地でも受かるつもりだから安心して」
初音から釘を刺され、秋葉は強く首を縦に振った。二週間もの間稽古に付き合ってもらって、はい受かりませんでしたでは話にならないし、秋葉とてそう易々と落ちるつもりはない。今まで培ってきた力全てをぶつけて合格を勝ち取るのみだ。
「それと明日の試験と明後日の任務。わたしはあなたたちとクラスが違う以上、同じ班にはなれないだろうから、何かあった時には秋葉のこと頼んだわよ。特に熾蓮!」
そう言って初音は熾蓮を指差す。
「言われんでも分かっとるっちゅうねん。お前も死なんようにせいぜい頑張りや」
「この二週間であたしたちも成長したからね。秋葉の守りは任せて!」
張りきる二人に秋葉は苦笑しつつも、守られるだけは情けなさすぎるので頑張ろうと心の中で意気込む。
と、最後に先日の結界の件についての調査結果の報告を熾蓮から受ける。
それによると、教員たちで学園の三重結界と模擬演習ルームに張られた結界を調査したが、変わったところは見られなかったようだ。
結局のところあれは何だったのだろうかと一同、首を傾げるものの、明日も早いということで模擬演習ルームを後にした。




