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天界の代報者~神に仕えし者たちの怪奇譚~  作者: 桜月零歌
第3章 巫級代報者試験編
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第3章-第12社 居残り稽古(その二)

 武術試験が終わって放課後。秋葉、熾蓮、悠、初音の四人が揃って居残り稽古をしていると、稽古場の扉が開き、そこから薫が入ってきた。


「四人ともお疲れ~。はい、これみんなで分けてね」


 薫は手にぶら下げていたビニール袋を机に置いた。中にはスポーツドリンクと大袋入りのポテトチップスが二つ入れられていた。


「お、やったー!」

「わざわざすまんな」


 悠と熾蓮に続いて、秋葉と初音も稽古を中断して差し入れのスポーツドリンクを手に取る。稽古で身体を動かしていると、自然と水分と塩分が欲しくなるので秋葉たちにとってはこれ以上ない差し入れだった。


「ありがと薫。助かるわ」

「こっちこそ。誘ってくれてありがとね初音」


 四人だけではできることも限られてくるからと、初音の呼びかけで薫の参加が決まったのだ。熾蓮からも樹に声をかけて了承を得たと聞いていたが、未だに姿を現していない。


「ちなみに、樹は一緒じゃないの?」


 秋葉は親しい薫なら何か知っていないかと尋ねる。


「もー、わたしだっていつも樹と行動してる訳じゃないっての。あいつなら今は親父さんの仕事に付き添ってるから今日は来ないよ」

「そういえばそんな話しとったな」


 薫が困ったように笑いながら言えば、熾蓮は思い出したように呟く。確か前に樹の両親が結界師(けっかいし)で、彼はその手伝いで京都に引っ越してきたと言っていた。


 日々の授業に加えて仕事の手伝いもあるとは樹もかなり多忙なようだ。秋葉はスポーツドリンクを口に含み、ペットボトルの蓋を締める。


「全員で五人だから、三人と二人で対人戦と行きましょうか」


 初音はみんなに向かって提案する。

「だったらオレ、本気の薫と手合わせしてぇ!」

「いいよ。秋葉の剣の腕もまだまだだからね」


 顕現早々、手を挙げた朱華に薫はすんなりと快諾する。宿主の意見はどうしたのだとこちらのことも考えずに言い出す朱華へ秋葉は溜息を吐く。


「仕方ないな……。勉強になるから良いけど、やるにしても私に憑依してだからね?」

「分かってるっての。その代わりちゃんとオレに合わせろよ?」

「うっ……できるだけ精進します」


 どちらかと言えば合わせるのは憑依体である朱華の方ではないかと思うが、実力は彼女の方が上なので従わざる負えない。


 さっそく模擬戦闘ルームに移動した秋葉と薫は『蔵』から刀を出して構える。秋葉が憑依を完了させると、真っ先に雷を刀身に宿した薫が突っ込んで来た。秋葉は刀身に桜の花弁を纏わせて斬り込み、刃同士が交じり合い、突風が巻き起こる。


 最初は張り合えていた秋葉だが、試合が進むうちに一撃一撃が重いのに加えて祓式で強化された薫の速さについて行けず、見かねた朱華によって憑依度がどんどん上昇。終いには完全に朱華に主導権が移る事態となった。


 そうして三試合を連続でこなした結果、全て僅差で薫が勝利し、秋葉は完敗した。秋葉と薫が模擬戦闘ルームを出ると、熾蓮、悠、初音の三人が入っていく。


「や、やっぱ薫は強かった……」

「ふぅ~、すっきりした~」


 薫の猛攻を受けてすっかりボロボロになった秋葉が地面へうつ伏せに倒れ込む一方、とことんやり合えて満足したのか朱華は清々しい表情を浮かべていた。


 しかし、朱華の実力はこんなものではないはずだ。彼女の力を最大限引き出して戦えるようになれれば良いのに……。


 そう自分の技量の無さを悔やんでいると、隣で刀の手入れをしていた薫に声をかけられ、秋葉は身体を起こして床に腰を下ろす。


「武術試験の最後に花弁で目眩まししたじゃん? あれ海希先輩がやった手法だよね?」

「あー、言われてみればそうかも。咄嗟に出たから別に意識してやったとかじゃないんだけどね」

 

 秋葉は一瞬何のことかと頭を捻るが、すぐにトドメを刺す前に放った桜の花弁のことだと気づいて話す。


 あの時は時間も無く、刀を弾いただけではすぐに反撃されると思った秋葉は、反射的に花弁を放ったのだが、知らず知らずのうちに海希の技を覚えていたのかもしれない。


「前々から思ってたんだけど、秋葉ってかなり成長スピード早いよね」

「え、そう?」


 思いがけない言葉に秋葉が訊き返すと、薫は頷きながら続ける。


「ここ二週間弱ずっと見てきたけど、誰よりも技の習得早かったし」

「まぁ、昔から吞み込みが早いとはよく言われるんだよね。自分ではあんま実感ないんだけど……」


 神社の手伝いをしていた時も祖母から要領がいいと褒められたし、愛宕山稽古で華南から全速力で逃げた鬼ごっこのときも筋が良いと言われた。自分から見れば全然そうは思わないのだが、他人から見たらそう見えるらしい。


「なるほどね。それはそうと、その怪我白澪(しられ)に治してもらいなよ」

「あ、そうだった」

 

 全身切り傷まみれになった身体へ目を向けた秋葉は、保健室にいるであろう白澪へ念話を飛ばす。


『白澪~、怪我治しに行きたいんだけどいいかな?』

『全く、先週から数えてもう何回目? 私の祓力だって無限じゃないのよ』

『すいません……』


 お医者様から叱られ、秋葉は念話越しに謝罪する。ふと模擬戦闘ルームへ目を向けると、ちょうど熾蓮と悠が初音から祓式の扱い方を教わっていた。


 初めて会ったときは喧嘩腰だった三人もいつの間にか仲良くなっていたようで安堵する。その様子を見届けた秋葉は、稽古場を後にして保健室へと向かった。

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