第3章-第11社 武術試験
海希と多田の来訪から二日後、ついに武術試験の日がやってきた。演習場に集まった秋葉たちは、前に立つ織部からテストにおけるルール説明を受ける。
「時間は三分。それぞれ自分の選択しとる武術の指導者と戦って一本取れたら勝利や。勿論、指導する側は多少なり手抜いた状態でやるさかい、絶対勝てへんいうことはない。但し、簡単に勝てる思うなよ。祓式の使用は指導者側、受ける側ともに許可する。むしろどんどん使って勝ちを拾いに行ってや」
すなわち、秋葉たち剣術組の場合は薫と相手して勝利すれば良いという訳だ。
先日、あんな試合を見せられて勝てるわけないだろうという思いが一瞬よぎるも、手加減してもらえるのであれば、多少なりとも勝機はある。
「最後に、軽傷程度の傷なら続行。致命傷さえ負わせへんかったら何してもええ。但し、トドメ刺す場合は寸止め。それができひんかった場合は自動的に失格とみなす」
負けても失格、致命傷を負わせても失格。なかなか塩梅が難しいところだが、武器は全員が真剣・実弾だ。
「悪いけど白澪は自分の番以外は、治療に回ってくれ」
「了解です」
白澪は頷くと、先に救護室の方へ歩いて行った。その様子に治癒の祓式を持っているのは、便利でありながら大変でもあるのだと秋葉は密かに感じる。
武術試験が開始してから十分間が経過し、前二人が無事に薫に勝利する中、樹の試験が開始となった。
序盤はお互い互角だったが、終盤になるにつれて樹が押され気味になる。しかし、薫の刀が振り上げられた瞬間、両者の間に防御結界が発生。
結界に付与された突風によって後方へ吹き飛ばされた薫が着地と同時に顔を上げた瞬間、目の前にいた樹が彼女の首筋に刀身を当てたことで決着が着いた。
「次、秋葉!」
薫から声が掛かり、緊張していた秋葉は重い足取りで自分の位置へ向かう。 前の三人が全員受かっていることによるプレッシャーで、胃の辺りがぐるぐる気持ち悪くなってくる。
と、朱華から念話が飛んできた。
『練習でやったこと思い出しながらやれば大丈夫だ。何、いざとなりゃあオレが前に出てやるよ』
『そう言ってくれるのは有難いけど、生憎と手出しは無用だよ。これは自分の試験だからね』
『へいへい。わーったよ』
秋葉は朱華にそう返す。朱華との会話で緊張が和らぎ、いつもの調子が戻って来た。秋葉は深呼吸を一度挟んで『蔵』から刀を出現させる。薫の方も準備が整ったようで、審判役の熾蓮が開始の合図を出した。
秋葉はその場で朱華へ憑依し、抜刀と同時に足と刀身に桜の花弁を纏わせ、一気に距離を詰める。踏み込んだ衝撃で床にヒビが入る中、間合いを詰めた秋葉は、薫の顔に向けて横一線に刀を振るって桜の刃を放つ。だが、瞬時に躱されてしまった。
「チッ」
秋葉は舌打ちを溢しつつ、負けじと交戦する。三合ほど刃が交わったところで、両者ともに距離を
取る。
直後、薫が祓式を発動し、刀身と足に雷を纏わせた状態で瞬く間に迫って来た。斜め上から刀が振り降ろされるが、秋葉は跳躍して回避。
立て続けに薫が切り返すが、秋葉は自身の横腹に刀身が当たる寸前、紅葉の葉を展開させて防御する。
「はあっ!」
秋葉は薫が飛ばした雷の刃を避けて再度、接近した。刃同士のぶつかり合う音が響き渡る中、秋葉は右足を軸に回し蹴りを放った。
そうして攻防を繰り返すこと残り三十秒。時間が経つにつれて押されつつあった秋葉は、容赦なく放たれる攻撃を凌ぎながらチャンスを窺う。
しかし、残り一分を切ってから本気を出し始めた薫には一切の隙が見当たらない。
(これは正攻法じゃ無理。だったら……)
意を決した秋葉は、後ろに跳躍。地面を蹴って一気に薫へ近づく。秋葉の目つきが鋭くなったことに気づいたのか、薫は秋葉の胴に向かって三連撃の突きを繰り出す。
一撃目は回避し、二撃目が右脇腹に入るも、痛みを感じている暇はないとラストは刀で軌道を逸らすことに成功させる。
「っ⁉」
体勢を崩した薫の顔に向かって、秋葉が桜の花弁を舞わせて更に怯ませる。すかさず狙いを定めた秋葉はガラ空きとなった薫の首元へ刀を振るい、寸止め。残り十秒のところで決着がついた。
「そこまで!」
「ありがとうございました」
熾蓮から試合終了と告げられ、憑依を解いた秋葉と薫はそれぞれ刀を鞘に納めて頭を下げる。結果は言うまでもなく秋葉の勝利に終わった。薫が本気を出し始めた時にはどうしようかと思ったが、何とか勝ててホッとする。
と、横から視線を感じそっちを見ると、薫が何やらこちらをまっすぐ見据えていた。
「薫? どうかした?」
「いや、何でも。その怪我治して貰いなよ」
「はーい」
秋葉が問うも、即座にはぐらかされる。気にはなるが、今は怪我の治療が優先だ。試合中は痛みを感じなかったが、次第にジンジンと痛んで来たので、白澪のいる救護室へと向かう。
すると、中に白衣を纏った白澪が待っていた。白澪から正面の丸椅子へ座るよう言われ、秋葉は着席する。
「また派手にやったわね……。この傷、痛くなかったの?」
霊眼で右脇腹の傷の状態を見ていた白澪に問われる。
「夢中でそんなこと考えてる暇もなかったや」
「そう。治してあげるから横向いてなさい」
秋葉は横を向いて、白澪が治療しやすいように右腕を上げる。白澪は祓式を発動。傷口に水が流れ込んでくるのを感じる。
しばらくすれば、スパンと切れていたところが塞がり、痛みが無くなった。白澪にお礼を言ってから救護室を後にして再び道場に戻ってくると、熾蓮と薫の試合が終盤を迎えていた。
本日五戦目の薫が疲れを物ともせず攻め入る中、熾蓮は炎を纏った刀で薫の剣を弾き、隠し持っていた苦無を薫の首筋に当てる。
「お、ちょうど終わった感じか」
秋葉は近くで見守っていた樹に声をかける。
「あぁ。熾蓮も、もう薫相手に躊躇するようなことは無くなったな」
「あー、そうだね」
初日の武術稽古で、試合していた熾蓮が女である薫相手に躊躇してしまい、彼女から「遠慮する必要はない」とこっぴどく怒られたのだ。
その時に聞いた話では、元の道場が男所帯故に女子ということでどうしても手加減されてしまうことがあり、性別関係なく正々堂々勝負したかった薫にとってはそれが気に食わなかったようだ。
だが、それは同時に強くなるきっかけにもなったようで、性別なんて気にならないほどの実力をつけてやると思い、刀を振ってたらいつの間にか師範代まで務めることになり、道場のみんなからは姐さんと呼ばれているようだった。
何はともあれ、初日の武術稽古での一件がきちんと効いているようで、熾蓮は試合中一切手を抜かず薫から勝利を勝ち取った。こうして全員分の試合が終わり、武術試験は終了となった。




