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天界の代報者~神に仕えし者たちの怪奇譚~  作者: 桜月零歌
第3章 巫級代報者試験編
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第3章-第10社 再会

 稽古開始から十日。秋葉たちが道場で剣術稽古をしていると、道場の扉が開いた。


「お、やっとるやっとる」

「お前、これから任務なの分かってんのか?」

「別にちょっとぐらいええやん」


 関西弁口調の青髪ポニーテールの男子生徒と焦げ茶色のショートに黒い瞳の男子生徒が会話しているのを耳にした秋葉と熾蓮は、彼らへと駆け寄る。


「海希(みき)さ――じゃなくて、海希(みき)先輩に多田(おおた)先輩じゃないですか! お久しぶりです」

「どうも。お久しぶりです~」

「ん? おぉ、秋葉! それに熾蓮も! やっぱ入学しとったか~!」

「よっ、久しぶりだな」


 そう言って挨拶する秋葉と熾蓮に海希と多田が笑みを浮かべて言った。


「お久しぶりです。あの時は助けていただきありがとうございました」

「ええよええよ~。元気そうで何よりや」


 頭を下げる秋葉に、海希は笑みを浮かべながら返すとともに隣の熾蓮へと視線を移した。


「ほんで前から熾蓮の御守(みかみ)って苗字聞いて気になってたんやけど、四つ上の姉貴とかいたりせえへんか?」

「姉はおりませんけど、四つ歳の離れた姉御っぽい人なら。……もしかして華南(かなん)師匠のことですか?」

「お、やっぱりそうか」


 熾蓮の話に多田は軽く目を見開いて反応すると、続けて話し出す。


「実は去年、俺らが一年生だったときに生徒会長だった華南先輩から世話になってな。もしかしたらと思ったが当たってたようだ」

「小さい頃からよう世話してもろてましたけど、あの人ホンマ無茶苦茶なんで……迷惑かけてたらすんません」

「ええよ。散々振り回されてきたんは確かやけど、おもろい人ではあるからな」

「そう思ってるのはお前だけだ」


 海希が言うとすかさず多田がツッコんだ。熾蓮たちの話を聞いて言いように愛宕山稽古の時の華南を思い返していると、試合を終えた薫と樹がやってきた。


「あれ? 多田先輩に海希先輩じゃないですか!」

「お二人もこっちにいらしてたんですね」

「おう、久しぶり」

「なんや樹と薫もこっち来とったんか~! 久しぶりやな~」


 親しげに話す四人を見ていた熾蓮が薫に知り合いかと尋ねる。剣術にはいくつかの流派があるらしいのだが、代報者になるための剣術道場は少ないそうで、中学の頃に別流派との合同稽古で何度も顔を合わせていたらしい。


「見た感じ、剣の腕は鈍っとらへんようやな」

「まぁ、授業で必然的に振るわされてますんで……」


 先ほどの試合をチラ見していたのだろう海希が言うと、樹は苦笑交じりに答えた。きっと薫の指導の厳しさを思い出したのだろう。幼少の頃から剣を習っていた樹でもへばるぐらいだ。


 剣術はおろか、ほんの三ヶ月までまともに運動していなかった秋葉にとっては更にきつく、寮に帰ったら必ず十分は死体のようにベッドの上でうつ伏せになっていた。久しぶりの再会に積もる話があるのか、海希や薫たちが話しているのを傍で聞いていると、再び道場の扉が開いた。


「ほぉ~、こらまたおもろいことになっとんな~」

「あ、織部先生」


 秋葉は入って来た織部へ声をかける。対する織部は入ってくるなり、こっちまでやって来た。


「おもろいことって何なんです?」

「いや、剣術大会の元全国一位と二位が揃っとる光景は珍しい思てな」


 熾蓮が尋ねれば、織部は海希と薫を指して言った。


「えっ⁉ 海希先輩が一位だったんですか⁉」

「あー、そんなときもあったな」


 驚愕する秋葉に、海希は興味なさげに目を逸らした。薫に勝てるぐらいだからもっと屈強で大柄な人だと想像していたが、自分を助けた海希が一位だっただと知り、秋葉は唖然とする。


 だが、クリスマスイブの時に見たあの剣技は並大抵のものではなかった。そう考えれば海希が一位だというのも納得できる。


「せっかくやし、ひと試合やってかへんか?」

「最近まともに強い奴と戦うてへんしな。俺はええで」


 織部の提案に海希は快く承諾する。


「おい、任務はどうした任務は」

「十分もあったら終わるし大丈夫やって」

「お前なぁ……」


 ニコッと笑って話す海希に多田が溜息を吐く中、織部が薫へ顔を向ける。


「薫はどうする?」

「勿論、受けさせてもらいます」


 薫はやる気に満ち溢れた表情で返す。両者の同意が得られたところで、織部はさっそく念話を飛ばして代報者課程の一年生全員に剣術道場へ集まるよう召集をかけた。


「一位と二位の試合見られる機会なんて滅多に早々あらへん。今後稽古する上でも勉強になるやろうから全員よう見とけよ~」


 織部は道場の壁際で試合が始まるのを待っていた秋葉たちへ声をかける。今回の試合は真剣を用いての戦闘で、三分の間に相手の急所を先に狙った者が勝ちとなる。中学までの試合は祓式の使用が禁止されていたが、今回は実戦を想定した試合で祓式の使用も許可されていた。


「白澪には悪いけど、二人の治療任せることになる。頼んだで」

「はぁ……分かりました」


 薙刀の稽古場からやってきた白澪は、渋々了承する。審判役の織部も同じく位置に着いたところで、腰に刀を差した状態で海希と薫が向かい合う。道場全体に緊張が走る中、両者は一礼。


 織部が試合開始の合図を出した途端、一斉にその場から踏み出した。薫が脚に雷を纏い、柄に手を掛けた状態で突進。その余波で道場の床にヒビが入る中、海希も同様に薫へ接近。


 互いに祓力の纏われた刀身が交じり合い、周囲に祓力の突風が吹き荒れる。


「うわぁ、凄っ……」

「もはや目で追うのも厳しいな……」


 高速で繰り出される剣戟に、離れたところで観戦していた悠と樹は圧倒される。一撃一撃がぶつかり合うごとに道場の壁や床にもダメージが入っていく。と、海希の周囲に霧状の刃が現れた。


(あれって……)


 秋葉がクリスマスイブの時に降ってきた霧と同じだと感じていると、海希が刀を横一線に振るい、薫に向かって刃が放たれた。薫はダッシュで避けながら雷を纏った刀身で、降り注ぐ霧の刃を粉砕する。


 その後、彼女が刀を縦に振った途端、海希に向かって雷撃が飛ばされる。海希は身体を横に逸らし、最小限の動きで回避。雷撃が道場の壁にぶつかり、大きな音を立てて破損した。


「薫のやつ、少し前まではあそこまでコントロールできてなかったのに、いつの間にあんなに操れるようになったんだ……」

「へぇ、そうなのか」


 薫のコントロールの精密さに目を見開く樹に、多田は感心したような声を上げる。その言葉に秋葉も薫へ目を向ける。薫が十字に雷の斬撃を飛ばすと、刀で打ち消そうとした海希の頬へ僅かに掠った。


 熾蓮の言う通り、雷撃の乱れが無くなっており、確実に海希を狙いに行っていた。


 その後も斬撃が飛び交うこと二分。両者、鍔迫り合いで膠着(こうちゃく)状態に陥る中、海希は刀を滑らせて離れた直後、薫の顔に向かって左手を振るう。


 と、霧が顔に掛かり、薫が怯んだ。その隙を逃すまいと海希は一気に踏み込んで接近し、薫の首筋に向かって刀を振い、寸止めした。


「両者、そこまで!」


 織部の声が道場の中で響き、海希と薫は刀を納めて一礼する。結果、この試合の勝者は海希となった。薫は一息つくと、海希の方を真っ直ぐ見つめる。


「やっぱ海希先輩には敵いませんね……」

「まぁ、学年と経験はこっちの方が上やしな。けど、薫も前に比べたら、格段に技術と経験値が上がっとる。もうちょいしたら追い抜かされそうな気ぃするわ」

「いや、そんな。わたしなんかまだまだですよ」


 笑いながらそう言う海希に、薫は眉を下げて首を横に振る。


 その後、白澪の治療を受けるために二人は道場に備え付けられている救護室へ入っていった。みんなが試合の感想を口にしている間、先に救護室から出てきた海希に秋葉は駆け寄る。


「あの、海希先輩に質問なんですけど、クリスマスイブの時、嵐山全体に霧がかかってたんですけど、あれってもしかして……」

「俺の祓式やな。人払いと索敵兼ねて降らしとったんよ」

「なんかいつもより濃いなと思ってたら、そういうことだったんですね」


(エルがあの時、出てこられなかったのはそのせいか……)


 秋葉は、助けられた日からずっとあの霧の正体が何なのか気になっていたのだが、海希の祓式だと聞いて納得する。霧の中に人払いの術が付与されていたのなら、エルと念話が繋がらず、出てこられなかったことにも頷ける。


 そう納得していると、近くにいた熾蓮が手を挙げた。


「俺からも質問良いですか?」

「おん、ええで」

「もし仮に巫級代報者試験とその後の任務に失敗した場合、退学になるんはホンマなんですか?」

 

 熾蓮の問いに道場全体が一瞬にして静かになる。


(え、ちょっ、熾蓮それは……)


 秋葉もまさかの質問に思わず、ぎょっとしながら熾蓮を凝視する。だが、質問した本人は至って真剣に海希を見つめていた。


「あぁ、せや」


 重苦しい空気の中、海希は首を縦に振ってきっぱりとそう告げる。と、同じく熾蓮の発言を耳にしていた多田が秋葉たちの方へ寄って来た。


「俺たちの代でも、試験前の稽古がきつすぎて辞めたやつは勿論、任務中に命を落とした奴もいる。たとえ試験と任務に成功したとしても、戦闘での後遺症の影響やら精神やられて普通科の方に転科した生徒も少なくない」

「ま、なんかあったとしても、そこにいる信武(しのぶ)ちゃん含めた先生らが何とかするやろうから、安心しい」


 多田が淡々とそう口にした後、海希がフォローを入れるように話しながら、織部の方へ視線を向ける。


 当の織部は深く頷きながら「心配せんでも、できる限りのことはするさかい安心せえ」と言い放った。その言葉に強張っていたみんなの表情が和らぐ。と、またしても道場の扉がスパーンと音を立てて開かれた。


「おーい、お前らそこで何してんだ! もう任務開始時間とっくに過ぎてんぞ!」


 青髪ボブカットに蒼眼の先輩らしき女子生徒が怒鳴りつけるように海希と多田に向かって言った。


「うげっ、すっかり忘れてた……。俺たちは行くから、試験と任務頑張れよ!」

「くれぐれも死ぬんやないで! ほなまたな!」


 海希と多田はそう言い残すと、揃って織部へ一礼し、ダッシュで道場を出て行った。さっきのどんよりとした空気はどこへやら、嵐のように去っていく二人に秋葉たちは呆気に取られるのだった。

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