第1章-第3社 一難去ってまた一難
「ホー?」
秋葉を捉えた白い梟がコテンと首を傾げる。
「いや、なんで梟がこんなところにいんの⁉」
「さぁ~? いつの間にか入って来たんじゃない?」
「んなわけないでしょーが!」
宙に浮きながら首を傾げるエルから梟に視線を戻す秋葉。だが、現に扉の鍵は閉まっていた。
では、一体どこから入って来たのだろうか。そう思っていると、エルが不意に梟の方へと飛んでいった。
「ちょっと? 何しようとしてるのエル」
「いやこの梟、普通のとは違う雰囲気を感じるから気になって」
梟に近づき、じっと見つめるエル。すると、梟が発光し、辺りに神々しい光が降り注ぐ。秋葉とエルは眩しさのあまり腕で視界を遮りつつ、目を瞑る。
直後、ポンッと小さな破裂音が聞こえ、梟が消えた代わりに一箱のダンボールが現れた。
「び、びっくりした……って、今度はダンボール?」
「よし、開けてみよう!」
「エル、あんた馬鹿なの⁉ さっきのこともあったし、爆弾とか入ってたらどうすんのさ⁉」
秋葉はエルに向かって鬼気迫るようにして声を張り上げる。
「んー、まぁその時はその時で」
「お気楽にも程があるなこのマスコット……」
さっさとダンボールを開けようとするエルに、秋葉は呆れながら呟く。
祟魔に襲われたかと思えば、今度は家に梟がいて、それが光ったかと思えばダンボールに変わったのだ。
警戒するのは当然のはずなのだが、何故エルはこうも躊躇なく、得体の知れないものに近づこうとするのか……。
いつにも増して不審な行動が多いエルを訝しげに見ていると、ダンボールの中身を開封したようで、そこから一枚の分厚い封筒を取り出した。
「どうやら危険物じゃないみたいだよ。はいこれ、秋葉宛てだって」
「え、私に?」
エルから渡された封筒は随分と頑丈に包装されているようで、素手で開けられそうにない。怪我の治療もあるため、ひとまず自室へ戻ることに。
傷口を水で綺麗にしてから二階の奥にある自室へ着いた秋葉は、鞄を床に下ろして机の引き出しから消毒液とガーゼ、包帯を取り出す。
椅子に座って靴下を脱ぎ、傷口を見てみると、思ったよりぱっくりと皮膚が割れていた。
(よくこんな状態で走れたな自分……)
火事場の馬鹿力というのか、本気で追いつめられているときには多少の怪我も気にならなくなるようで、秋葉は自身の凄さに顔を引き攣らせる。
治療を済ませて包帯を足に巻き付けたところで、はさみで開封口を切って封筒の中身を取り出せば、中には一枚の紙と一冊の冊子が入っていた。
どうやら見た感じ学校案内のようなもののようだ。まずは紙の方を開いてみる。
「何々……って、推薦状?」
「なんて書いてあるんだい?」
「えっとね――」
――『北桜秋葉様。このたび貴殿には、京都大神高等専修学校――大神学園への入学資格が与えられました。入学するかはご自身の意志にお任せします。入学を希望される場合は下記の希望届へご記入の上、本学までの送付をお願いいたします。本学の詳細は同封してあるパンフレットをご覧ください。貴殿の入学を心よりお待ちしております。学園長・西園寺美和子』
「――だってさ」
「なるほどね……」
エルは肉球のついた手を顎に当てながら唸り始めた。秋葉は再度推薦状に視線を戻し、文章を読み返す。
(急に入学資格が与えられたと言われてもな……。さっきのこともあるし、見るからに怪しい……。でも、この学園長の名前どこかで見たことあるような……)
記憶を辿ってみるが、直近でそのような名前の人物に出会った覚えはないし、見たこともない。いつ見たのだろうと思いながら推薦状を凝視していると、ある部分に目がいく。
「ねぇ、エル。この大神学園ってさ、さっき助けてもらった海希さんが口にしてなかった?」
「あー、そういえばそうだったね」
「なら、海希さんってここの関係者なのかな……」
試しに同封されていた冊子の最初の部分を開いてみると、海希と同じ制服を着た生徒が写っていた。
ということは海希がここの生徒なのはほぼ間違いないだろう。パラパラと見ていけば、大神学園が神道系の学校だということが記載されていた。
「神獣のエルなら、大神学園について何か知ってたりする?」
「大神学園といえば、ボクらの間では代報者の育成機関として有名なところだよ。表向きは神道系の学校とされてるけどね」
「代報者の育成機関……かぁ」
北桜家は代々、あやかしたる祟魔を祓う代報者の家系とされており、秋葉の両親はもちろん、祖母に至るまで全員が代報者だった。
となると、秋葉宛てに大神学園から推薦状が来るもの頷けるし、家業を継ぐという意味では入学するべきなのかもしれない。
だが、確かに進路には迷っているとはいえ、何の前触れもなく送られてもこちらは心の準備ができていない。
進路希望用紙の提出は明日。どうするべきか決めかねていると、秋葉のベッドにころんと寝転がったエルが口を開く。
「ボク的には入学しておいた方が良いと思うけどね~」
「なんでよ?」
「んー……そうだねぇ」
ベッドから起き上がったエルは烏の羽を広げて宙を飛び、何やら考え込む。
訝しげに自身の周りを烏の翼を広げて飛ぶ白狼を目で追っていると、エルが秋葉の正面でピタッと止まってこう口にした。
「よし。もうこの際だから君に言っておこうか」
「え、ど、どしたの急に……」
いつもの飄々とした態度はどこへやら真剣な眼差しを向けられ、緊張が走る。
「信じられないかもしれないけど――秋葉、君は祟魔に命を狙われている」
「――はっ?」




