第3章-第3社 祓式分析
授業の初日を終え、寮室に戻ってきた秋葉は絶賛、パソコンに向かっていた。
「秋葉、祓式の進捗はどう?」
「んー、どうしたら憑依できるかなって思って色々漁ってるんだけど、なかなか上手くいかなくてさ」
悠に問われ、マウスを手にしていた秋葉は、舞衣の管理するサイトのキャラ一覧をスクロールしながら言った。
六限目の授業の後、試しに白蓮というキャラクター設定を作って、憑依しようと試みたものの、あえなく失敗に終わる羽目となった。
「何か憑依できるキャラに条件があるとか?」
「それはありそう」
エルの設定に関しては、時間もあったしかなりの量を練ることができた。その反面、白蓮はほぼ即興で練ったに等しいので、設定量の違いで憑依できなかった可能性はありそうだ。
数として三百体以上はいるであろうキャラ項目をスクロールしていると、悠が画面を覗き込んできた。
「にしても、結構なキャラ数だね。これ全部秋葉が?」
「うん。憑かれやすい体質のおかげで外へ遊びに行くとかあんまりできなくて、暇だったからずっと作ってたんだ。そしたらいつの間にかこんなにできてたって感じ」
キャラ一覧には結奈や舞衣と共同で作ったキャラ設定もいくつか含まれているが、大半は秋葉の作ったものに相違ない。ひとまず、設定量のあるキャラをいくつか引っ張ってこようと、秋葉は画面をスクロールしてタブを開いていく。
「お、この子可愛いじゃん!」
傍で画面を眺めていた悠が声を上げる。悠の目線の先には金髪蒼眼のエルフの見た目をした少女のイラストがあった。このイラストは言うまでもなく、結奈に描いてもらったものだ。
「アリシアってキャラだね。良かったら見る?」
「うん! 見る見る!」
秋葉は悠が見やすいように椅子から立った。
「アリシアは金髪エルフで大森林を守護する狩人なのだけど……」
悠が結奈の描いたイラストとキャラ設定の書かれている文へ目を通している間、秋葉はアリシアがどんなキャラなのか思い出ししながら軽く解説し始める。と、こちらを向いた悠の顔が強張り始める。
「あ、秋葉……その姿……」
「――へっ?」
信じられないものを見るかのような目で凝視してくる悠に、秋葉は首を傾げる。ふと視線を下に向けると、見慣れない服装に変わっていた。秋葉は慌てて立ち上がり、全身鏡で自分の姿を見る。
すると、そこには金髪蒼眼にエルフ耳の生えた少女が映っていた。服も部屋着から緑のフード付きの外套にチュニック、短パンにくるぶしまでのブーツに変わっている。
「嘘でしょう⁉ 何でっ⁉」
変わり果てた自分の姿に秋葉は驚愕する。
「秋葉、何かした?」
「いえ、これと言って特には……。ただキャラの説明してただけなのだけど……」
恐る恐る尋ねてくる悠に、秋葉は激しく首を横に振って応える。
「というか雰囲気も口調も変わってない?」
「え、そうかしら?」
「ほらそれ!」
「あ、本当ね……」
悠の指摘でいつもより声色が明るく、且つ口調もお姉さんっぽくなっていることに気づく。憑依したら口調と雰囲気まで変わるのかと驚きながら、エルフ耳をつねってみれば、痛みが走った。どうやら本物らしい。
「とにかく、憑依成功で良いのかしら?」
「た、多分……。あ、何ならその腰に差してる短剣が本物か試してみたら?」
「そ、そうね」
あまりに突然のことに未だに憑依した実感が湧いてこない中、腰に差してある短剣を手にすると、金属特有の硬く冷たい手触りがした。
その後、悠に準備してもらったかぼちゃへ狙いを定め、垂直に短剣を振り下ろす。と、特に引っかかることなく、すっと綺麗に真っ二つに割れた。
「切れ味も抜群だし、耳も本物。どうやら本当に憑依できたようね」
「おぉ、良かったじゃん!」
微笑みながら話す秋葉に対し、憑依できたことに自分ごとのように喜ぶ悠。これでひとまず、祓式が使えないまま試験を迎えるなんてことは無くなった。
「けど、まるきり発動条件が分からないわね……」
「まぁ、それは追々考えたらいいんじゃない?」
「それもそうね」
しかし、この金髪とエルフ耳はこと現代日本においては些か目立つ。もう少し違和感のないキャラを作った方が良いだろうと思案するさ中、秋葉は重大なことに気づいた。
「憑依できたは良いけど、元に戻るにはどうしたら……」
「あ、ホントだ」
「戻り方が分からないんだったら意味ないじゃない……!」




